心房細動は最も頻度の高い不整脈疾患である。本疾患は加齢とともに発症リスクが急激に上昇し、70歳代で5 %、80歳代で10 %、90歳代で25 %が発症すると言われている。合併症である心原性脳塞栓が寝たきり老人の主要原因の1つとなることから、高齢化率が21%を超える超高齢社会のわが国では深刻な社会問題を引き起こす疾患である。一方、心房細動を始めとする生活習慣病は、多数の遺伝的因子と環境要因が複雑に絡みあって発症すると考えられている。生活習慣病の遺伝的要因に関しては、近年の急速なゲノム解析技術の発達により、数百万ヶ所に及ぶSNP座位について比較的容易にゲノム情報を得ることができるようになってきた。この技術を用いてゲノムを網羅的に相関解析するゲノムワイドアソシエーション研究(GWAS)により、多数の疾患について、数多くの疾患関連遺伝子座位が同定され、報告されてきた。心房細動についても多数の関連遺伝子が発見されている。しかしながら、臨床的に有用な指標についての遺伝子研究を含むバイオマーカー探索研究や分子メカニズム解明研究はなされていない。本研究では「体質」としての遺伝的要因を把握し、同時に治療の前後で患者の体内で起きている変化を捉え、遺伝的因子と環境要因との複合的な分子ネットワークの解明をすることで、心房細動の治療効果に個人差が生じる原因をつきとめる端緒とする。2021年度は前年度に引き続きサンプルの収集、臨床情報の整理、ゲノム解析と発現情報解析を施行し、多階層情報を収容する統合データベースへのデータ追加を行った。また、それらの情報を統合したオミックス解析を施行し、複数の有望な関連分子群を同定した。
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