研究課題
本年度においては、心筋特的Angptl2 KOマウスの心筋、ANGPTL2をノックダウンした初代新生児ラット心筋細胞やヒトiPS細胞由来心筋細胞では、呼吸鎖複合体IIの活性が増加していることを見出した。呼吸鎖複合体IIの増加は、ミトコンドリアの予備呼吸能亢進、電子伝達系において産生される活性酸素種の減少や細胞死抑制につながることが報告されている。実際、ANGPTL2をノックダウンした心筋細胞では予備呼吸能の増加、活性酸素種の減少が認められた。近年、加齢や圧負荷に伴う心筋組織でのDNA損傷応答活性化が、心不全発症・進展のメカニズムの1つとして近年注目されている。我々は、ANGPTL2シグナルによるAKT-SERCA2a経路制御機構解明研究過程において、核内でヌクレオソーム構造を変化させ、転写制御、クロマチン構造の維持、DNA修復などに関与することが報告されているHMGB2の発現が心不全の心筋組織において増加することを見出した。そこで、HMGB2ノックアウトマウスを用いた圧負荷心不全マウスモデルを作製し、その病態生理学的意義を解析した。その結果、野生型マウスに比べ、HMGB2ノックアウトマウスでは、DNA損傷応答の活性化が亢進していた。さらに、HMGB2ノックアウトマウスでは、心筋細胞内のカルシウム濃度調節機構として重要なAKT-SERCA2a経路が著しく不活性化されることを見いだした。以上より、HMGB2は、心不全発症に伴う心筋細胞でのDNA損傷応答の活性化及びAKT-SERCA2a経路の活性低下を阻害し、心保護作用を示すことが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度においては、ANGPTL2シグナルによる心筋エネルギー代謝制御機構としてANGPTL2シグナル抑制がミトコンドリアの予備呼吸能亢進に加えて活性酸素種を減少させることを明らかにした。さらに、HMGB2が、心不全発症に伴う心筋細胞でのDNA損傷応答の活性化及びAKT-SERCA2a経路の活性低下を阻害し、心保護作用を示すことも明らかにしており、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
今後、ラット新生児初代心筋細胞、ヒトiPS由来心筋細胞、およびマウス心筋細胞株などを用い、ANGPTL2ノックダウンや過剰発現を行い、ANGPTL2シグナルによるAkt-SARCA2a経路制御機構、ANGPTL2シグナルを介したミトコンドリア呼吸鎖複合体IIのアセンブリーやSDH発現制御機構などを中心に、詳細な分子機構解析を実施する。さらに、我々はこれまでの研究成果として、miR221/222によるANGPTL2発現抑制が運動により誘導される心保護作用の一つの分子機構であることを明らかにしており、その詳細なメカニズムについてさらに検討を行う。
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