研究課題/領域番号 |
18H02812
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐野 元昭 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (30265798)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オステオポンチン / 免疫老化 / 肥満 |
研究実績の概要 |
加齢と内臓肥満は、ともに「免疫老化」、すなわち、獲得免疫機能の異常、炎症性素因の増大を引き起こす。免疫老化は、「老化関連T細胞」という共通した細胞群の蓄積が原因となっている。加齢に伴う老化関連T細胞の出現には、長い年月にわたるT細胞の恒常性増殖に伴う複製老化が関与していると考えられる。一方で、内臓肥満に伴う老化関連T細胞は、高脂肪食負荷後わずか2週間で観察されることから、その出現にはストレス誘発性早期老化が関与していると考えられる。本研究の目的は、食餌内容を変えることによって、変化する腸内細菌叢、腸内代謝産物、腸管の炎症、内臓脂肪組織の代謝産物に焦点を当てて、高脂肪食がT細胞を老化させる原因物質の同定を進めること、および、老化関連T細胞に特異的に発現している分子CD153に着目して、その機能を明らかにすることである。マウスを2種類の異なった高脂肪食で飼育した。これまで用いてきた高脂肪食、すなわち、飽和脂肪酸が豊富な高脂肪食(高ラード食)と比べて、単価不飽和脂肪酸が豊富な高脂肪食(高オリーブ食)で飼育したラットでは、同じ程度の内臓脂肪型肥満を呈したものの、内臓脂肪の慢性炎症の程度(マクロファージの浸潤)は軽く、全身のインスリン抵抗性に伴う糖代謝異常も軽症であった。これに呼応して、内臓脂肪組織中の「老化関連T細胞」の出現もほとんど見られず、血液中オステオポンチン濃度の上昇も認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪の質が内臓脂肪組織に異なった影響を与えることが分かった。脂肪酸には①エネルギー源、②シグナル分子、③生体膜成分としての3つの役割があり、脂質二重膜を形成するリン脂質の脂肪酸組成は臓器・組織形成としての機能維持に重要な役割を果たすことが予想されるが生体膜成分としての脂肪酸の役割、特に膜リン脂質を構成する脂肪酸組成が細胞機能に及ぼす影響について着目した。野生型マウスを飽和脂肪酸が豊富な高ラード食、一価不飽和脂肪酸が豊富な高オリーブ食、普通食で16週間飼育した。高ラード食群と高オリーブ食群は同程度の体重増加・内臓脂肪重量増加を引き起こしたが、高ラード食群では高オリーブ食群と比較して心臓は肥大し拡張機能が障害されていた。高ラード食群と高オリーブ食群ではミトコンドリア機能・脂肪酸のエネルギー代謝関連遺伝子の発現を上昇させていたが、その程度に差はなく中性脂肪含量・セラミドやジアシルグリセロール含量の上昇の程度にも差を認めなかった。対照的に変化がみられたのが膜リン脂質の飽和脂肪酸/一価不飽和脂肪酸(SFA/MUFA)比と小胞体ストレス応答遺伝子の上昇であった。高ラード食群では膜リン脂質のSFA/MUFA比が上昇し小胞体ストレス応答遺伝子が誘導されていたが、高オリーブ食群では観察されなかった。以上の結果から「食する油(脂肪酸)の飽和脂肪酸の比率が高いと膜リン脂質のSFA/MUFA比が高まり(膜リン脂質の飽和脂肪酸化)、拡張障害に関与している」ことを見出した。同様な現象が脂肪細胞、免疫細胞でも起こっている可能性が示唆される。膜の脂肪酸組成が細胞機能にどのような影響を与えて、「老化関連T細胞」の出現に結びつくのか今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
抗老化薬のターゲットの一つとして炎症を抑制することが考えられている。オステオポンチンは、細胞外マトリックス蛋白として骨を作るだけでなく、サイトカインとして、免疫系に広く作用して損傷治癒、外部から侵入する細菌の排除にも必要な蛋白質として知られている。しかし、最近の疫学的研究、動物実験からオステオポンチンが過剰に分泌されると、体中に炎症を起こしやすくなり、老化が早く進むことが示されてきた。このOPNを産生して細胞として「老化関連Tリンパ球」に注目した。本研究では、(1)飽和脂肪酸(ラード)豊富な高脂肪食負荷によって内臓脂肪組織で老化関連Tリンパ球が出現する分子機序を解明し、(2)老化関連Tリンパ球を除去することによって、内臓脂肪肥満に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症、全身のインスリン抵抗性、高オステオポンチン血症を是正できるか否かを検証する、ことを目的としている。 本年度は、(2)では既に存在する老化関連Tリンパ球を除去する方法の確立をめざす。老化関連Tリンパ球の細胞表面にはCD153が発現している。老化関連Tリンパ球のCD153の発現量とオステオポンチンの発現量には正の相関を認めることから、CD153はPD-1陽性Tリンパ球集団から老化関連Tリンパ球を識別するマーカーだけでなく、老化関連Tリンパ球の機能においても重要な役割を果たしていることになる。 また、CD153に対するある種の抗体が、老化関連Tリンパ球にアポトーシスを誘発することを京都大学の研究グループが確認している。申請者はすでにCD153ノックアウトマウスを入手、繁殖している。CD153ノックアウトマウスと野性型マウスに高脂肪食を負荷し、内臓脂肪の慢性炎症、老化関連Tリンパ球の出現、血液中オステオポンチン濃度の変化、糖代謝異常を比較検討する。
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