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2019 年度 実績報告書

高脂肪食負荷に伴うT細胞老化の分子機序と制御法の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18H02812
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

佐野 元昭  慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (30265798)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードオステオポンチン / 免疫老化 / 肥満
研究実績の概要

2019年度は、既に存在する老化関連Tリンパ球を除去する方法の確立をめざした。老化関連Tリンパ球の細胞表面にはCD153が発現している。老化関連Tリンパ球のCD153の発現量とオステオポンチンの発現量には正の相関を認めることから、CD153はPD-1陽性Tリンパ球集団から老化関連Tリンパ球を識別するマーカーだけでなく、老化関連Tリンパ球の機能においても重要な役割を果たしていることになる。また、CD153に対するある種の抗体が、老化関連Tリンパ球にアポトーシスを誘発することを京都大学の研究グループが確認している。そこで、CD153ノックアウトマウスと野性型マウスに高脂肪食を負荷し、内臓脂肪の慢性炎症、老化関連Tリンパ球の出現、血液中オステオポンチン濃度の変化、糖代謝異常を比較検討した。しかし、残念ながら高脂肪食を負荷するとCD153ノックアウトマウスでも野性型マウスと同様に老化関連Tリンパ球が出現して、血液中オステオポンチン濃度が上昇するという結果となった。そこで、免疫系の細胞でオステオポンチンの転写活性が誘導される機序に関して検討する進めることとした。心筋梗塞後の創傷治癒機転にオステオポンチンが重要な役割を果たしていることが報告されていたが、その産生細胞は明らかにされていなかった。我々は、オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写が活性化するとEGFPタンパク質が発現するSppl-GFP ノックインマウスを用いて、心筋梗塞後の創傷治癒機転に働くオステオポンチンは骨髄由来の単球から分化したマクロファージが産生すること、その分化にIL-10-STAT3-galectin-3 経路が重要な役割を果たしていることを発見した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

既に存在する老化関連Tリンパ球を除去する方法の確立をめざした。しかし、CD153は老化関連Tリンパ球の生存にもオステオポンチンの産生にも必須ではないことが分かった。そこで、「老化関連Tリンパ球を除去する」から「老化関連Tリンパ球におけるオステオポンチンの産生を阻害する」に研究の方向性をシフトさせた。オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写制御機構は、細胞を跨いで、普遍的な機序が働いている可能性がある。そこで、心筋梗塞後の創傷治癒機転におけるマクロファージでのSpp1の転写制御機構の解明に取り掛かった。結果、心筋梗塞後の創傷治癒機転では骨髄由来の単球がIL-10刺激によりSTAT3がリン酸化されること、細胞内でgalectin-3が蓄積することなどが、Spp1の転写活性化に必須であることを明らかにした。さらに、STAT3の下流にはMerTKがあり、細胞表面にMerTKが発現することが、オステオポンチン産生マクロファージの成熟に重要であること、また、STAT3の活性化だけではだけでは、Spp1の転写活性化には不十分で、同時にERKが活性化されることが必須であることも分かってきた(論文投稿中)。その他、腎臓の障害(虚血再灌流障害や片側尿細管結紮)においては、オステオポンチンは尿細管上皮細胞(主として近位尿細管)から産生されて、免疫系の細胞が主たる産生源ではないことも明らかにした。

今後の研究の推進方策

我々は、様々な病態において、臓器特異的に、異なった細胞からオステオポンチンは産生されることを明らかにしてきた。Sppl-GFP ノックインマウスを駆使して、オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写制御機構を解明していくことにより、オステオポンチンの発現を制御する方法論を確立する。オステオポンチンは、線維化の促進、死細胞の食細胞による貪食促進など介して創傷治癒機構においては必要不可欠な分子である。一方で、肥満した内臓脂肪組織、あるいは、加齢に伴って細胞老化をおこしてリンパ組織や脾臓から産生されるオステオポンチンは、自然免疫系を過剰に活性化し続ける結果、生活習慣病、心血管疾患、慢性腎臓病、肺疾患、そして、老化そのものを促進させる。オステオポンチンの発現を制御する方法の開発は、これらの病態に対する新たな治療法の開発につながることが大いに期待される。本研究に関しては、得られた知見をもとに、最終的には、老化関連Tリンパ球からのオステオポンチンの産生を抑制して内臓脂肪肥満に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症、全身のインスリン抵抗性を是正できるか否かを検証する。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Palmitate induces cardiomyocyte death via inositol requiring enzyme-1 (IRE1)-mediated signaling independent of X-box binding protein 1 (XBP1)2020

    • 著者名/発表者名
      Yamamoto Tsunehisa、Endo Jin、Kataoka Masaharu、Matsuhashi Tomohiro、Katsumata Yoshinori、Shirakawa Kohsuke、Isobe Sarasa、Moriyama Hidenori、Goto Shinichi、Shimanaka Yuta、Kono Nozomu、Arai Hiroyuki、Shinmura Ken、Fukuda Keiichi、Sano Motoaki
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research Communications

      巻: Volume 526, Issue 1 ページ: 122-127

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2020.03.027

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] (Pro)renin receptor accelerates development of sarcopenia via activation of Wnt/YAP signaling axis2019

    • 著者名/発表者名
      Yoshida Naohiro、Endo Jin、Kinouchi Kenichiro、Kitakata Hiroki、Moriyama Hidenori、Kataoka Masaharu、Yamamoto Tsunehisa、Shirakawa Kohsuke、Morimoto Satoshi、Nishiyama Akira、Hashiguchi Akihiro、Higuchi Itsuro、Fukuda Keiichi、Ichihara Atsuhiro、Sano Motoaki
    • 雑誌名

      Aging Cell

      巻: Volume18, Issue5 ページ: e12991

    • DOI

      10.1111/acel.12991

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Endothelial-Mesenchymal Transition Drives Expression of CD44 Variant and xCT in Pulmonary Hypertension2019

    • 著者名/発表者名
      Isobe Sarasa、Kataoka Masaharu、Endo Jin、Moriyama Hidenori、Okazaki Shogo、Tsuchihashi Kenji、Katsumata Yoshinori、Yamamoto Tsunehisa、Shirakawa Kohsuke、Yoshida Naohiro、Shimoda Masayuki、Chiba Tomohiro、Masuko Takashi、Hakamata Yoji、Kobayashi Eiji、Saya Hideyuki、Fukuda Keiichi、Sano Motoaki
    • 雑誌名

      American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology

      巻: Volume61,Issue3 ページ: 367-379

    • DOI

      10.1165/rcmb.2018-0231OC

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Obesity-related immune senescence and cardiomyopathy2019

    • 著者名/発表者名
      Motoaki Sano
    • 学会等名
      Basic Cardiovascular Sciences
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 急性大動脈解離へ発症後の血管炎症のメカニズム2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      第60回日本脈管学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 睡眠障害が骨髄のマクロファージの分化・増殖のダイナミズムを修飾して動脈硬化を促進させる機序について2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      第29回日本循環薬理学会・第55回高血圧関連疾患モデル学会合同学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 非糖尿病専門医がすべき糖尿病診療2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      第67回日本心臓病学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 骨髄由来の単球がオステオポンチン産生マクロファージへと分化して心筋梗塞による創傷を治癒する機序2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      第92回日本生化学会大会
  • [学会発表] 栄養エネルギー代謝から考える心不全2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      東京都内科医会 第32回医学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 肥満と心不全2019

    • 著者名/発表者名
      佐野元昭
    • 学会等名
      第19回日本抗加齢医学会総会
    • 招待講演
  • [図書] アンチ・エイジング医学15巻5号2019

    • 著者名/発表者名
      新村健, 佐野元昭
    • 総ページ数
      120
    • 出版者
      メディカルレビュー社

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公開日: 2021-01-27  

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