研究課題
2019年度は、既に存在する老化関連Tリンパ球を除去する方法の確立をめざした。老化関連Tリンパ球の細胞表面にはCD153が発現している。老化関連Tリンパ球のCD153の発現量とオステオポンチンの発現量には正の相関を認めることから、CD153はPD-1陽性Tリンパ球集団から老化関連Tリンパ球を識別するマーカーだけでなく、老化関連Tリンパ球の機能においても重要な役割を果たしていることになる。また、CD153に対するある種の抗体が、老化関連Tリンパ球にアポトーシスを誘発することを京都大学の研究グループが確認している。そこで、CD153ノックアウトマウスと野性型マウスに高脂肪食を負荷し、内臓脂肪の慢性炎症、老化関連Tリンパ球の出現、血液中オステオポンチン濃度の変化、糖代謝異常を比較検討した。しかし、残念ながら高脂肪食を負荷するとCD153ノックアウトマウスでも野性型マウスと同様に老化関連Tリンパ球が出現して、血液中オステオポンチン濃度が上昇するという結果となった。そこで、免疫系の細胞でオステオポンチンの転写活性が誘導される機序に関して検討する進めることとした。心筋梗塞後の創傷治癒機転にオステオポンチンが重要な役割を果たしていることが報告されていたが、その産生細胞は明らかにされていなかった。我々は、オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写が活性化するとEGFPタンパク質が発現するSppl-GFP ノックインマウスを用いて、心筋梗塞後の創傷治癒機転に働くオステオポンチンは骨髄由来の単球から分化したマクロファージが産生すること、その分化にIL-10-STAT3-galectin-3 経路が重要な役割を果たしていることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
既に存在する老化関連Tリンパ球を除去する方法の確立をめざした。しかし、CD153は老化関連Tリンパ球の生存にもオステオポンチンの産生にも必須ではないことが分かった。そこで、「老化関連Tリンパ球を除去する」から「老化関連Tリンパ球におけるオステオポンチンの産生を阻害する」に研究の方向性をシフトさせた。オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写制御機構は、細胞を跨いで、普遍的な機序が働いている可能性がある。そこで、心筋梗塞後の創傷治癒機転におけるマクロファージでのSpp1の転写制御機構の解明に取り掛かった。結果、心筋梗塞後の創傷治癒機転では骨髄由来の単球がIL-10刺激によりSTAT3がリン酸化されること、細胞内でgalectin-3が蓄積することなどが、Spp1の転写活性化に必須であることを明らかにした。さらに、STAT3の下流にはMerTKがあり、細胞表面にMerTKが発現することが、オステオポンチン産生マクロファージの成熟に重要であること、また、STAT3の活性化だけではだけでは、Spp1の転写活性化には不十分で、同時にERKが活性化されることが必須であることも分かってきた(論文投稿中)。その他、腎臓の障害(虚血再灌流障害や片側尿細管結紮)においては、オステオポンチンは尿細管上皮細胞(主として近位尿細管)から産生されて、免疫系の細胞が主たる産生源ではないことも明らかにした。
我々は、様々な病態において、臓器特異的に、異なった細胞からオステオポンチンは産生されることを明らかにしてきた。Sppl-GFP ノックインマウスを駆使して、オステオポンチンをコードしている遺伝子Spp1の転写制御機構を解明していくことにより、オステオポンチンの発現を制御する方法論を確立する。オステオポンチンは、線維化の促進、死細胞の食細胞による貪食促進など介して創傷治癒機構においては必要不可欠な分子である。一方で、肥満した内臓脂肪組織、あるいは、加齢に伴って細胞老化をおこしてリンパ組織や脾臓から産生されるオステオポンチンは、自然免疫系を過剰に活性化し続ける結果、生活習慣病、心血管疾患、慢性腎臓病、肺疾患、そして、老化そのものを促進させる。オステオポンチンの発現を制御する方法の開発は、これらの病態に対する新たな治療法の開発につながることが大いに期待される。本研究に関しては、得られた知見をもとに、最終的には、老化関連Tリンパ球からのオステオポンチンの産生を抑制して内臓脂肪肥満に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症、全身のインスリン抵抗性を是正できるか否かを検証する。
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