研究課題/領域番号 |
18H02815
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
足立 健 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 内科学, 教授 (50231931)
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研究分担者 |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338022)
佐藤 泰司 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 薬理学, 准教授 (10505267)
井戸 康夫 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 内科学, 助教 (50814133)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肥満 / 脂肪細胞 / ERK2 / 血管内皮機能 / インスリン / 2型糖尿病 / 脂質代謝 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
Metabolic Syndrome/2型糖尿病(Mets/DM2)は内臓脂肪蓄積、脂質・糖代謝異常の複合病であり、インスリン抵抗性と血管内皮障害を基盤とした心血管合併症が予後規定因子である。内臓脂肪蓄積は心血管合併症に大きく関与するが、その詳細な機序は不明である。インスリン抵抗性時に増強するシグナル分子であるExtracellular regulatory kinase2(ERK2)の肝細胞、脂肪細胞特異的欠損マウスに高脂肪高ショ糖食を負荷して、その役割を明らかにする。ERK2欠損では脂質合成亢進を伴い肝臓・血管周囲・心臓周囲の脂肪沈着が観察され、血管内皮障害を認めた。 本研究ではこのモデルを用いて、ERK2による脂質代謝・異所性脂肪沈着の調節機序と、心血管障害誘発の機序を検討し、Mets/DM2心血管合併症の病態解明と新規治療法開発を検討することを目的とする。 特にこの研究はインスリン抵抗性時に増強するシグナル分子であるExtracellular regulatory kinase2(ERK2)の臓器特異性欠損マウスを作成した。肝臓特異性ERK2欠損マウス(LE2KO)の高脂肪高ショ糖食 (HFHSD) 負荷による脂肪肝増悪を検討し、新規に開始した脂肪細胞特異性ERK2欠損マウス(AE2KO)のHFHSD負荷による異所性脂肪沈着による心血管障害の検討を進める。この結果により異所性脂肪沈着が臓器障害にどのように関与するかを明らかにして、今後の脂肪細胞を標的とした血管保護治療を考案する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)LE2KOのHFHSD負荷モデルにおいてSERCA2の活性低下に伴う小胞体ストレスに加えてAMPKの活性低下が判明した。これにより、これらの活性を補う事が脂肪肝改善、血管病治療につながる可能性が考案された。 2)糖尿病マウス(db/dbマウス)において、1)で発見した標的SERCA2の活性化材(CDN1163)を投与したところ、糖代謝、インスリン抵抗性、血管内皮機能、骨格筋機能の改善を認めた。 3)新規に開始した脂肪細胞特異性ERK2欠損マウス(AE2KO)のHFHSD負荷では種々の臓器に異所性脂肪沈着が起こり、酸化ストレスを介して臓器障害が起こる事が判明した。脂肪肝の増加による繊維化を伴った肝炎、骨格筋脂肪沈着によるミトコンドリア機能障害と運動能力低下、血管周囲脂肪沈着による血管壁酸化ストレスの増大と、内皮機能の低下を認めた。 4)AE2KOのHFHSD負荷においては、皮下脂肪の分化障害が起こり、リパーゼやPPAR-αの発現低下を認めた。この分化障害が脂肪蓄積低下により異所性脂肪沈着と臓器障害に働くと考えられた。 5)血管周囲脂肪(PVAT)と内皮機能について酸化ストレス発生を含めた検討を行った。正常血管では、PVAT血管内皮機能促進に働く。正常のPVATは血管拡張因子を放出する事が判明した。これに対し、AE2KOのHFHSD負荷ではPVATが血管内皮機能を著明に増悪させる。IL-1βを含む血管障害因子を放出している事。PVATから著明に活性酸素種が産生される事が判明した。
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今後の研究の推進方策 |
1)AE2KO のHFHSD負荷について異所性脂肪沈着と心血管障害の関連を血管内皮機能、心機能検査、病理学的検討を用いて行う。(大小血管の内皮機能測定機、メタボリックチェンバー、心エコー・ミラーカテーテル、植え込み型心電図・持続圧モニター、不整脈誘発装置を用いる。)これにより、異所性脂肪沈着で起こる心血管病の特徴を調べる。AE2KOでは皮下脂肪優位に分化障害が起こり、脂肪蓄積が障害されて異所性脂肪沈着が起こる。この機序について、遺伝子解析、シグナル解析、代謝解析を含め、詳細検討する。 2) AE2KO のHFHSD負荷についてメタボローム解析(慶應大学 菱木)、脂質解析(リピドーム)、サイトカインアレー等を駆使して、心血管障害に関与する因子・経路の同定を行う。 3)薬理的・遺伝子工学的介入:LE2KO/AE2KO のHFHSD負荷マウスにSGLT2阻害剤、GLP-1製剤、SERCA2活性化剤を投与して、代謝・血管内皮障害が改善するかを検討する。肝臓へのレンチウイルスベクターによるAMPK/SERCA2発現増強による脂肪肝の改善と血管内皮機能の改善についてウイルス作成や準備的検討を行う。(井戸) 4)ERK2を介した臓器連関の解明:脂質合成能の高い脳・神経の関与を検討するために神経特異的ERK2欠損マウス(NE2KO:Nestin-Cre x ERK2 flox/flox)のHFHSD負荷を準備する。 5)PVATの特性について、Gene Chipメタボローム等を用いて血管障害物質の同定を行い、将来のDrug Targetを探索する。
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