研究実績の概要 |
再生医学の現在の主流は、iPS細胞などの幹細胞であるが(Wang, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007)(Mou, et al. Cell Stem Cell. 2012)、幹細胞から目的の肺上皮細胞を誘導するには、プロセスは煩雑であり、腫瘍形成のリスクもある。これまでiPS細胞関連技術の進歩によりその課題は克服されつつあるが、なお自身のiPS細胞から再生を目的とした細胞製剤を使用するにはコストや時間の点で課題がある。直接リプログラミングは、iPS細胞などの幹細胞を経ることなく、線維芽細胞などの体細胞から他種の細胞へ直接誘導する方法である。神経細胞、肝細胞等ではすでに成功が報告されているが、肺上皮細胞への直接リプログラミングはこれまで報告がなかった。研究代表者らは、候補因子としてあらかじめ14因子を選定し、因子導入後のSP-C遺伝子やSP-C蛋白の発現を検討することで、最終的にはマウス線維芽細胞に特異的34因子を導入することで肺上皮様細胞への直接リプログラミングを試み、II型上皮細胞のマーカーであるSP-C遺伝子、及びタンパクの発現を認める細胞を誘導した。この誘導細胞は、II型肺胞上皮細胞に特徴的なlamellar体を有していた。 以上の有望なマウスの研究結果を踏まえ、本研究ではヒト線維芽細胞から肺上皮細胞への直接リプログラミングによる効率的な誘導方法を確立することを目的とした。最終年度までにヒトのリプログラミング因子の候補因子を16因子選定し、レンチウイルスシステムを用いて、ヒト肺臨床検体から採取した肺線維芽細胞を用いて検討を行い、リプログラミング因子として3 因子を候補因子として抽出した。3 因子の導入によりSP-C遺伝子を高発現する細胞は確認できた。今後はさらに誘導細胞の機能評価やin vivoでの評価を行っていく予定である。
|