研究課題
本研究では、ヒトiPS細胞由来の胎生期腎前駆細胞であるネフロン前駆細胞と尿管芽細胞から、糸球体と尿細管を含むネフロン様組織と集合管様組織への分化誘導系を用いて、腎前駆細胞から糸球体、尿細管、集合管等を形成する成体腎構成細胞への分化機序を解明する。具体的には、上記の腎組織形成系においてシングルセル遺伝子発現解析と主要なシグナル経路を網羅する成長因子と低分子化合物のスクリーニングを実施し、成体腎構成細胞の分化を制御するシグナル機構を解明する。そして、その情報を基にヒトiPS細胞から成体腎構成細胞への選択的分化誘導法を開発する。将来的には、本研究の成果を発展させ、遺伝性腎疾患患者由来iPS細胞の罹患成体腎細胞種への分化誘導を用いた疾患モデルの作製による病態解析や治療薬開発、成体腎細胞を用いた薬剤の腎毒性評価系を構築し、腎疾患に対する新規治療薬開発、薬剤性腎障害の防止策の確立に繋げる。H30年度には、ヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞と尿管芽細胞の混合細胞塊から糸球体と近位および遠位尿細管、ヘンレのループ、集合管を含む腎組織が形成される培養系を確立し、その系においてシングルセルRNA-sequencingを行った。また、ヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞から糸球体と近位および遠位尿細管、ヘンレのループを含むネフロン構造への分化系において、低分子化合物を添加するスクリーニングを実施し、特定の成体腎構成細胞種を選択的に誘導する約10種類の候補化合物を同定した。
2: おおむね順調に進展している
(1) シングルセル遺伝子発現解析による成体腎構成細胞の分化機構の探索ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞と尿管芽細胞を混合して細胞塊とし、気相液相培養することで内部に糸球体、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管、集合管を含む腎組織が形成される培養系を新規に構築した。本腎組織と組み合わせ前のネフロン前駆細胞、尿管芽などの発現を比較するためにシングルセルRNA-sequencingを実施した。現在、解析は順調に進んでおり、今後、分化の遷移状態における遺伝子発現変化を観察し、細胞分化の分岐点と細胞分化を制御するシグナル経路を探索する。(2) 成長因子・低分子化合物のスクリーニングによる成体腎構成細胞の分化機構の探索ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞塊から糸球体、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管を含むネフロン様構造への分化系において、当研究室および京都大学iPS細胞研究所創薬技術開発室が保有する主要なシグナル経路の活性化剤または阻害剤である化合物約300種類のネフロン形成に対する影響を検証した。その結果、約10種類の低分子化合物が特定の成体腎構成細胞種を選択的に誘導するヒット化合物として同定された。現在、それらのヒット化合物の効果の再現性を確認することを行っており、今後、成体腎構成細胞の選択的分化誘導法の開発と分化機構の解明へと研究を進める予定である。
H30年度に実施したヒトiPS細胞から分化誘導されたネフロン前駆細胞と尿管芽細胞から形成される腎組織のシングルセルRNA-sequencingの結果をもとに、各成体腎構成細胞種への運命決定の機序解明を行う。分化分岐点におけるシングルセルRNA-sequencingによって、各々の成体腎構成細胞種へ傾斜する際に発現変動する遺伝子群を同定し、分化過程における途中段階の細胞分画を決定する。さらに、その発現変動する遺伝子群の上流シグナル、下流にて発現制御を受ける転写因子群、新規の細胞系譜マーカー遺伝子の候補などを抽出する。また、前年度に実施した成長因子および低分子化合物のスクリーニングによって、約10種類の低分子化合物が特定の成体腎構成細胞種を選択的に誘導するヒット化合物として同定された。今後、そのヒット化合物の処理濃度や処理期間を最適化する。また、ヒット化合物同士の組み合わせ処理による相乗効果の有無を検討する。さらに、ヒット化合物の類縁化合物の効果の検証により化合物の標的分子の情報を得ることと、化合物処理した細胞としていない細胞の間でのRNA-sequencingによる比較解析を組み合わせ、ヒット化合物の下流のシグナルを絞り込み、分化機構の機序解明を併せて実施する。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 4件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
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