研究課題/領域番号 |
18H02833
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
佐野 栄紀 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (80273621)
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研究分担者 |
高石 樹朗 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 助教 (10303223)
山本 真有子 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 助教 (20423478)
森坂 広行 高知大学, 医学部附属病院, 医員 (60826840)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 皮膚炎症 / 皮膚癌 / 細胞内シグナル / 2段階発癌モデル / 紫外線誘発発癌モデル |
研究実績の概要 |
慢性炎症により癌化にいたる臨床知見は、ピロリ菌による慢性胃炎から胃癌への進行などをはじめ数が多い。しかし、この関連を実験的には明確に証明されてはいない。RNase活性を持つRegnase-1 (Reg1)は、ケモカインあるいはサイトカイン等のmRNAを分解することにより炎症の制御に関わっている。このため、Reg1ノックアウト(KO)マウスは全身性自己免疫を発症する。また、Reg1はNF-κBあるいはAP-1のシグナリングにも関与することで癌細胞の悪性度を制御することが報告されている。我々は新たに作成した、表皮特異的にReg1をノックアウトしたマウス(K5-Reg1cKO)は、非特異的な炎症あるいはアレルギー炎症の惹起にともなう表皮炎症シグナルを遷延化させることを証明し、論文発表した(J Invest Dermatol. 2018 Jun;138(6):1439-1442)。DMBA1回外用後、週3回TPA外用することによる2段階化学発癌系においてK5-Reg1cKO マウスにおいては、TPA外用8週目よりpapillomaの発症を認め、18週後においては一匹あたり平均約25個のpapillomaあるいは一部にそれらから進展したSCCを認めた。一方、対照マウス群においては、この間ほとんど腫瘍せず、平均でも一匹当たり1個以下しか発生しなかった。UVB領域紫外線照射による発癌系においても同様、週3回200mJ/cm2照射8週後には表皮肥厚に加えて日光角化症に類似する核異型を有する有棘細胞の出現を確認したが、対照マウスでは全く表皮に変化は認められなかった。以上の結果より、表皮Reg1は炎症を抑制するのみならず、発癌を抑制する役割を有することが明らかになった。これにより、皮膚の慢性炎症が発癌に関連する可能性を示唆するとともに、Reg1の発現を維持することで皮膚炎のみならず将来の発癌をもコントロールしうる可能性を示唆し、あらたな創薬標的としての可能性も開ける。以上の結果は2019年日本研究皮膚科学会学術大会(於青森)にて口演演題として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.DMBA/TPA2段階発癌およびUVB照射発癌モデルを用いた解析:前述のごとく、Reg1KOマウスにおいては対照に比べてDMBA/TPAによる発癌までの潜伏期間が著明に短縮、発症頻度、腫瘍個数も著明に増加していることが明らかになった。同様に、initiation, promotionの両方の作用を有する紫外線照射後の発癌モデルでもReg1KOマウスは日光角化症に類似する核異型を有する有棘細胞の出現を確認した一方、正常マウスは全く表皮の変化がなかった。以上まとめて、Reg1が炎症のみならず発癌の抑制にも関与していることが示された。 2.前癌状態におけるK5-Reg1cKOマウス皮膚における変動遺伝子の解析:Reg1KOマウスにおいて、DMBA/TPA3週目の(皮膚発癌が明らかになるまえの段階で)皮膚組織を対照マウスのそれと比較するために、RNA sequence解析を行った。その結果、アラキドン酸カスケードの異常シグナルが明らかになった。現在、それらの遺伝子の動向につきさらに詳細に解析中である。 3.Reg1過剰発現マウスの作製:上の知見とは逆に、表皮Regnase-1の過剰発現がそれらの抑制シグナルを促進し、発癌を阻害すると予想される。このため我々は、表皮特異的Regnase-1過剰発現誘導発現モデルマウスを作製した。この目的で作成したマウス(K5.CreERT2_CAG-CAT-mReg1)は外来性タモキシフェン依存的に表皮のRegnase-1を強発現するはずである。現在、このマウスが作製でき、Tamoxifen誘導下における皮膚、胸腺、脾臓、肝組織をRT-PCRによりRegnase-1の発現および炎症性サイトカインの発現を検討中である。さらに、これらのマウスを用いて、表皮特異的Regnase-1KOとは逆に、抗炎症、腫瘍発生抵抗性が付与されているかを解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.発癌に関わるRegnase-1の標的分子の同定:現在、RT-PCRによりK5.Regnase-1cKOにおいて変動する遺伝子のうち、Reg1発現低下による発癌に関連する遺伝子を数個同定している。今後、これらのin vivoの発癌機序においての役割の詳細とそれがRegnase-1がregulateする遺伝子を、ヒト皮膚癌例えば有棘細胞癌あるいはそのin situ の前癌状態である日光角化症、ボーエン病などで検証をする。 2. C57BL6マウス皮膚はTPA反応resistantであることより、元来発癌実験モデルに適さない。このため、DBA2マウスと交配したB6D2F1マウスを作製する。これを用いて、DMBA/TPAモデルでのpapilloma/SCCに対しtamoxifen投与によるRegnase-1強制発現の影響を検討する。このために以下3つのwindowを設定する。1)DMBA外用の前後にTamoxien投与し、Reg1の発癌制御に関わるタイミングあるいはwindowを決定する。これにより得られる結果により、Regnase-1が発癌イニシエーションをregulateするか否かを明らかにできる。2)windowをDMBA外用以降にタモキシフェン処理することによりTPAによるプロモーションに関わる可能性を検証する。これにより得られる結果により、Regnase-1が発癌プロモーションをregulateするか否かを明らかにできる。3)あるいはpapilloma/SCCが出現して以降にタモキシフェン投与することにより腫瘍退縮が起きるか検討する。もし、この発癌モデル後期においてRegnase-1過剰発現が腫瘍退縮を誘導するならばRegnase-1発現が新規の治療薬としての可能性を示唆するものである。
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