研究実績の概要 |
本研究では、骨髄中局所の微小環境の重要性とは別に、骨髄造血システム全体を完全に覆っている骨組織による造血大環境 macroenvironment の存在を新しく提唱し、それを具体的に証明することを目的とする。 まず、プロスタノイド制御装置としての骨組織の評価について、これまでの我々の研究で、骨髄成熟好中球が骨髄での主たるPGE2産生細胞であり、その産生トリガーが交感神経シグナルであることが明らかとなっているが、骨髄全体から見た制御機構としては産生されたPGE2を分解する系も同様に重要であるとの仮説を立て、その解析のためのPGE2分解酵素15ーPGDHのノックアウトマウスの凍結精子を研究室に搬入はできていたものの、コロナウイルス感染症による緊急事態宣言や神戸大学動物実験施設での感染による全てのマウスのクリーニングが必要となり、このマウスの個体復元と繁殖は今年度は叶わなかった。しかし、脂質メディエーターに関しての研究は広がり、交感神経シグナルにより骨髄未分化好中球がアドレナリンβ1, β2受容体を介して脂質メディエーター受容体型転写因子PPARδの発現を増加させ、ここに経口摂取されたω3脂肪酸、特にEPAがリガンドとして作用することで Angptl4の産生につながり、これが骨髄血管透過性を抑制する経路を発見するに至った。骨髄酸素濃度感知受容体としてのTRPA1の欠損マウスの解析が遅れていたが、交感神経刺激が骨髄を低酸素にさせるシグナルであることを発見し、この低酸素が骨髄赤芽球からFGF23を産生させ、FGF受容体を介して造血幹前駆細胞上のケモカイン受容体CXCR4の機能を抑制する経路を発見した。造血大環境破綻の造血器腫瘍進展における役割の解明については、標的モデルであるvav-NUP98/HOXD13 Tgマウスで骨髄脂質メディエーターなどの解析を継続しているところである。
|