研究課題
我々は、新たながん免疫療法を確立する目的で、がん細胞で高発現されているHLA-A2/NY-ESO-1157複合体をがん免疫標的モデルとして、新たながん特異的一本鎖抗体(scFv)スクリーニング法を確立した。まず、4人の健常人ヒト末梢血B細胞を回収し、5’RACE PCR法を用いて免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域遺伝子をドナー毎にクローニングした。次に、HLA-A*02:01/NY-ESO-1157 (A2/NY-ESO-1157)特異的抗体 (clone 3M4E5)を利用してscFvライブラリーを作製し、HLA-A2/NY-ESO-1157特異的scFvのスクリーニングを行なった。その結果、10種類以上の新規HLA-A2/NY-ESO-1157特異的scFvを短期間で同定できた。さらに、新たに同定したHLA-A2/NY-ESO-1157特異的scFvをchimeric antigen receptor (CAR)遺伝子に組み込み、CAR-T細胞を作製した。その結果、抗原特異性を維持しながら、様々な標的親和性と交差反応性を保持するscFvレパトアの獲得に成功した。また、このCAR-T細胞は様々ながん細胞を抗原特異的に殺傷することがin vitro実験系で確認された。さらに、ヒト腫瘍細胞移植免疫不全マウスを用いたin vivo実験系でも抗腫瘍効果が確認できた。以上のことから、本研究手法は様々ながん抗原特異的scFvレパトアの作製に応用が可能であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
健常人ヒト末梢血B細胞を回収し、5’RACE PCR法を用いて免疫グロブリン軽鎖および重鎖可変領域遺伝子をクローニングした。A2/NY-ESO-1157 scFv可変領域遺伝子の片方を可変領域ライブラリーに置換することで、A2/NY-ESO-1157 CARライブラリーを作成した。これらのCARライブラリーを末梢血T細胞に遺伝子導入して抗原特異的に刺激すると、A2/NY-ESO-1157特異的CAR-T細胞が増幅してくることをテトラマー法により見出した。続いて、A2/NY-ESO-1157 テトラマー陽性CAR-T細胞よりその可変領域遺伝子をクローニングしたところ、複数の新規A2/NY-ESO-1157特異的CAR遺伝子の同定に成功した。次に、CAR遺伝子を Jurkat 76細胞株に遺伝子導入した (J76/CAR)。J76/CAR細胞株をA2テトラマーで染色すると、A2/NY-ESO-1157テトラマーによって様々な強度で染色されることから、これらのscFvが異なる標的親和性を保持していることが明らかとなった。さらに、一部のJ76/CAR細胞株は、A2/NY-ESO-1157テトラマーにもA2/HIV Gag77テトラマーにも染色されたことから、scFv間で異なる交差反応性を保持していることも明らかとなった。
本年度は昨年度の研究を発展させて、まず複数のドナーより健常人/患者B細胞を回収し、ドナー毎に免疫グロブリン可変領域遺伝子ライブラリーを作製して、CARライブラリーの拡大を図る。同時に、新たに同定した可変領域遺伝子を固定して、可変領域ライブラリーを活用しながら全く新しいA2/NY-ESO-1157特異的CARの同定に繋げる。さらに、新たに同定したA2/NY-ESO-1157特異的CARを末梢血T細胞に遺伝子導入する。A2/NY-ESO-1157テトラマーと各種サイトカイン解析により、内在性に発現するA2/NY-ESO-1157複合体を認識して腫瘍細胞を傷害することを確認する。また、NY-ESO-1157ペプチドのアミノ酸配列の一部をアラニンに置換して、同定したA2/NY-ESO-1157特異的CARが認識しうる類似ペプチドの探索を行い、正常細胞に対する潜在的交差反応性にも配慮することで安全性の担保に務める。このような解析を通して、臨床応用に最適なA2/NY-ESO-1157特異的CAR遺伝子の同定に繋げることを目標とする。さらに本研究で得られた知見を、HLA/ペプチド複合体とは異なる抗原特異的CARにも応用する。具体的には、現在難治性B細胞性腫瘍で臨床試験が進められているCD19特異的CARを利用する。CD19 scFv可変領域遺伝子の片方を可変領域ライブラリーに置換して、新たなヒト型CD19-CARの同定に繋げて、本研究課題の汎用性を確認する。
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