研究課題/領域番号 |
18H02841
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
国崎 祐哉 九州大学, 大学病院, 講師 (80737099)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌微小環境 / 造血器腫瘍 / ニッチ |
研究実績の概要 |
造血幹細胞は、骨髄内の特殊な環境(造血幹細胞ニッチ)により制御を受けており、骨芽細胞、血管内皮細胞、主に血管周囲に存在する間葉系幹細胞などがその構成成分であると示されている。その内、間葉系幹細胞は多分化能、 組織再生能を持つことに加えて、造血幹細胞ニッチを構成する細胞として中心的な役割を果たしており、造血幹細胞と間葉系幹細胞の相互作用が骨髄造血を維持するために非常に重要であることが明らかとなっている。 近年、加齢にともなう造血幹細胞機能の低下の原因として、造血幹細胞自身へのDNA損傷、酸化ストレスといった内的要因以外に、その骨髄微小環境の加齢に伴う機能的変化という外的要因が注目されている。また、マウスモデルにて、白血病細胞が造血幹細胞ニッチを質的に変化させることで、白血病細胞に有利な機能を持つ骨髄微小環境(白血病幹細胞ニッチ)を形成することが示されている。しかし、加齢、あるいは白血病細胞の存在がニッチ構成間葉系幹細胞にどのような変化を起こすかについて、骨髄組織の構造的解析を含めた詳細な検討は行われていない。 加齢、血液腫瘍による特徴的な骨髄微小環境の変化を同定し、双方に共通する変化から、加齢に伴う血液腫瘍の増加という病態の骨髄微小環境の観点からの理解を目指す。また、血液腫瘍による特徴的な骨髄微小環境の変化から、白血病幹細胞ニッチ機能の理解、さらにニッチを標的とした新しい白血病治療戦略の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急性白血病のマウスモデルであるMLL-AF9モデルマウス骨髄より分離した間葉系幹細胞では、CXCL12、SCFといったニッチ因子の遺伝子発現の低下に加えて、Angpt-1、Angpt-2といった血管修飾因子の発現に著明な変化が認められた。また、同マウスの骨髄の三次元イメージング技術を用いた解析において、CD31を高発現する血管の増加や血管構造の粗造化が認められ、白血病細胞が、血管および血管周囲細胞に影響を与えることにより正常造血を抑制し、白血病の進展に有利な環境、すなわち白血病ニッチを形成していることが示唆された。 現在、更に詳細な変化や、上述の様な変化がどの様にして、正常造血幹細胞や白血病細胞に影響を与えるかの詳細な解析を行っている。すでに、白血病を発症したマウス骨髄組織から分離、ソートした血管内皮細胞や間葉系幹細胞のRNAシーケンスを用いた遺伝子解析を行い、白血病骨髄で高発現する遺伝子を同定し、その機能解析のためにコンディショナルノックアウトマウスの作製に着手している。 更に、5TGM1マウス骨髄腫細胞株を、C57BL/KaLwRijHsdマウスへ静脈内注射することで発症する骨髄腫モデルを確立した。5TGM1細胞株は、免疫不全マウスや57BL/KaLwRijHsdマウス以外には、生着せず、C57/Bl6野生型マウスでは、骨髄腫を発症することはないと考えられていた。ヒト多発性骨髄腫は、高齢者に多い疾患であるため7-10週と90週以上の高齢マウスで5TGM1の生着を比較したところ、高齢マウスでは、優位に多くのマウスで生着し、発症した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られたデータより各間葉系細胞を亜群に分離するためのマーカーを抽出し、そのマーカーによりそれぞれの細胞群の骨髄内分布を3次元イメージングにより得、正常骨髄における骨髄微小環境のマップを作成する。このマップを対照として、造血器腫瘍モデルマウスにおいて間葉系幹細胞分画の分布にどのような変化を来すかを解析する。 急性骨髄性白血病(AML)マウスモデルとしてMLL-AF9遺伝子導入によるAMLモデルを用いる。予備実験において、間葉系幹前駆細胞もしくは骨芽細胞を蛍光標識するマウスに、AMLを発症させることにより、AML骨髄ではNG2-creかつCollagen1.1-creで標識される間葉系細胞分画が増加することを見出している。 白血病骨髄にて発現の上昇が得られた因子を欠損もしく強制発現させるマウスが完成したら、間葉系幹細胞や血管内皮細胞に特異的に発現するCre遺伝子改変マウスと掛け合わせる事により、それらの細胞由来の因子が正常造血機能および白血病の進展に及ぼす影響の解析を行う。更に細胞集団としてのみではなくDrop-seq技術を用いたシングルセル遺伝子発現解析により、AMLを特異的に支持する細胞群、更にはシグナル分子を同定し、白血病の進展を支持するニッチを特定する。 骨髄腫モデルマウスについては、7-10週齢、90週齢を超えたC57/Bl6野生型マウス及びC57BL/KaLwRijHsdマウスの骨髄間質細胞を比較することにより骨髄腫を支持する微小環境の同定を目指す。
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