加齢に伴い骨髄間葉系幹細胞においてテロメア保護分子POT1aの発現の著明な低下が認められた。POT1aは、シェルタリン複合体の構成分子として、テロメアにおけるDNA損傷反応を防止する一本鎖DNA結合タンパク質である。POT1aは、造血幹細胞の自己複製能および分化能力を維持するために必須であることが報告されており、テロメアの保護は「幹細胞プログラム」を維持するために重要であると考えられたため、このPOT1aを間葉系幹細胞から欠損させるマウスを作製したところ、骨格系の発育障害を認めた。本マウスの骨髄より間葉系幹前駆細胞集団を既知のマーカーで分離ソートし、RNAシーケンスにより遺伝子発現解析を行ったところ、GO解析により骨や骨格形成に関わる遺伝子群の発現低下が認められた。更に、末梢血においてB細胞が著明に減少し、骨髄全細胞のDrop-seqを用いたシングルセルシーケンス解析により、B細胞前駆細胞の減少も認め、間葉系幹前駆細胞の機能と正常血球分化との関連が示唆された。更に、骨髄増殖性疾患類似病態を示す血球特異的Ragnase-1欠損マウスから既知のマーカーでソートした間葉系幹前駆細胞や血管内皮細胞集団のRNAシーケンスを行い双方で有意に上昇を認めた因子Xをすでに特定することが出来た。この因子Xについて、大阪大学微生物研究所にて細胞特異的に欠損や過剰発現が可能となるfloxマウスが完成しており、今後これらのマウスと血管内皮特異的Cre(Cdh5-creERT2)マウスや骨髄間葉系幹細胞で発現する(NG2-cre)マウスを交配することにより、この因子Xの造血器腫瘍発症や進展との関連につき解析を行う。また、因子Xを介した腫瘍細胞と骨髄微小環境の間の相互作用を標的とした新規造血器腫瘍制御法の開発へ繋ぐ。
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