研究課題
老化とは、感染など様々なストレスによる臓器・個体レベルの生体内ネットワークの恒常性破綻であり、臓器機能低下やがんなどの疾患発症を促進する。ただし、複雑な生物学的応答のもとで、がん発症に至る分子基盤は明白でない。高齢者に好発する骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞より発生するクローン性造血器腫瘍であり、造血不全を生じる予後不良ながんである。また、疫学データは老化とがんであるMDS発症との関連を強く支持するが、加齢に伴った環境ストレスによる造血不全とMDS発症との因果関係は不明である。こうした状況のなか、申請者は、老化に伴うがん発症機構を理解するために、MDS発症過程を模して感染ストレスを負荷したDNA脱メチル化酵素・TET2変異マウスモデルを新たに作製した。本研究では、感染ストレスによって惹起されたエピゲノム変化が記憶・継承されて、造血機能障害を来すとともに、TET2変異を生じたクローナル造血からMDS発症に至る分子基盤を解明する。さらに、エピゲノム変化が進展して機能障害が生じたMDS幹細胞を対象として、若年期幹細胞のエピゲノム状態に初期化する試みを実施する。以上、感染記憶による造血幹細胞の機能障害とMDS発症の分子基盤を解明して、エピゲノム初期化によるMDS発症予防を試みる。本研究は、持続的な慢性炎症ではなく、短期の感染ストレスによるエピゲノム変化ががん発症を促進するメカニズムの解明が目的であり、近年のよくみられる慢性炎症とがん研究にはない新規性がある。
2: おおむね順調に進展している
申請者の仮説と知見にもとづいて、老化に伴うがん発症機構を理解するために、感染ストレスによる造血幹細胞の機能低下とMDS発症の分子メカニズムを、日常的な感染ストレスによって惹起されたエピゲノム変化の観点から解明する本研究を実施している。現在、幹細胞における感染ストレス後のエピゲノム変化を統合的に検証して、MDS発症に関連する遺伝子と変動するネットワークの同定まで完了している。今後、詳細な機能的解析を進めていく予定である。
今後は、現在までに同定した責任候補遺伝子を中心に、感染ストレスで生じた造血幹細胞におけるエピゲノム変化の分子基盤を解明するとともに、培養系またはマウスモデルを用いて、ストレスシグナル阻害やエピゲノム初期化による造血幹細胞の機能維持また回復とMDS進展抑制効果の検証を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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