研究課題
造血システムを維持する造血幹細胞は発生過程において様々な造血組織を横断的に移動しながら、恒常的数に達するまで自己複製分裂を繰り返し、最終的に成人造血の場である骨髄に定着する。誕生直前に骨髄造血が始まるとされるが、造血幹細胞がどのように異なる組織間を移行し、骨髄へと定着して恒常的な造血を開始するのか、その詳細なメカニズムは明らかとなっていない。本研究では、造血幹細胞トレーサーマウスを用いて造血幹細胞の組織間分布、組織内配置、数を組織イメージング技術で定性的かつ定量的に解析し、数理モデルから導かれる予測に基づき、組織横断的な造血幹細胞の遊走機序をシングルセル解析により構成的に理解する。得られる結果は、造血幹細胞の末梢血動員、移植後の骨髄再建などの再生医療において有用な知見となりうる。まずはじめに胎児期における造血幹細胞の組織転移を検討した。その結果、造血幹細胞の数は誕生前後で肝臓でピークに達したのち、脾臓や骨髄へと移行して行くことが明らかとなった。また、細胞周期は臓器に関わらず誕生前後において造血幹細胞は非常に盛んに分裂を繰り返していた。これらの結果を元に現在、数理モデルの確立を行っており、今後臓器間の機能的関係性についてアプローチする。また、HSCに蛍光色素tdTomatoを高発現させたマウス(HLF-tdTomato)を用いて組織イメージング技術を行い、胎児骨髄を観察した。その結果、誕生前後の骨髄において造血幹細胞は骨髄内だけでなく髄外にも集積を認め、シングルセルRNA-seqから遺伝子発現の異なる造血幹細胞群であることが示唆された。今後はその生物学意義について機能解析を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初、手がかりとして顕微鏡でのデータがメインであったが、その後のコラボレーション展開により数理モデルや組織イメージングが確立され、研究が進んだ。また、イメージングのために必要なマウスの交配も進み、材料や技術的基盤が整ったため。
骨髄外に集積する造血幹細胞の性質の解明に向けて、試験管内コロニー形成能や移植後の骨髄再建能を中心に機能的解析を進めていく。組織イメージングについては様々なニッチレポーターを用いてデータの取得とディープラーニング技術を用いた定量化を進めていく。さらに、シングルRNA-seqから示唆される造血幹細胞クラスターについて、制御因子の同定に取り組んでいく。
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J Exp Med
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Wiley Interdiscip Rev Dev Biol
巻: 27 ページ: e341
10.1002/wdev.341
http://ircms.kumamoto-u.ac.jp/research/hitoshi_takizawa/