研究課題
トロンボモジュリン(TM)は複数の領域から構成されて、主に血管内皮細胞上に発現している膜蛋白である。TMは上皮細胞増殖因子様領域(EGF様領域)の、6回繰り返しドメインの4番と5番目の領域でトロンビンと結合後、プロテインCを活性型プロテインC(APC)に変換して血液凝固を負に制御している。われわれは、5番目のEGF様領域(TME5)に血管新生作用や、抗炎症作用、そして、様々な毒性から血管内皮細胞を保護する作用が存在することを明らかにした。われわれは、TM変異体を用いた、造血細胞移植後に血管内皮細胞障害に起因して発症する血栓性微小血管症や肝類洞閉塞症候群の予防・治療薬の開発を目指したが、残念ながらTME5にはトロンビンとの結合能が残存しているため、移植後の血小板減少のある患者に使用すると出血の副作用が懸念された。そこでTME5からアミノ酸を削り、トロンビンとの結合能は無く、内皮保護作用のみを持つアミノ酸構造の取得を目指した。本試験で、19アミノ酸からなるTME5に存在する領域(TME5C)には内皮保護作用が残存するが、トロンビン時間や活性化プロトロンビン時間には影響を及ぼさないことが確認された。さらに、TME5Cから1アミノ酸置換や、さらに1アミノ酸を削ると血管新生作用や血管内皮保護作用が減弱することから、TME5Cが我々が目指す最終的なTM変異体の候補アミノ酸構造であると決定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、血管内皮細胞保護作用を持つが、血液凝固系には作用しないトロンボモジュリン分子の最小単位を取得することであるが、既に19アミノ酸にその作用があることを突き止めた。その19アミノ酸の効果は培養細胞を用いた実験のみならず、マウス血管内皮細胞障害モデルでも確認された。
現在取得している19アミノ酸に1塩基ずつ変異を入れて、TM分子が持つ血管内皮細胞保護作用が減弱、あるいは増強しないか確認する。近頃、長崎大学小児科から、幼少期から出血を繰り返す症例に、トロンボモジュリン遺伝子の412番目のコドンにグリシンからアスパラギン酸への1塩基対の変異(G412D)があることが報告された。このコドン412番目の変異は、我々が同定した19アミノ酸に含まれている。このG412D変異を化学合成して血管内皮保護作用がどうなっているのかを検証してみたい。19アミノ酸には血管内皮保護作用以外にも抗炎症作用もあるため、例えば敗血症マウスモデルなどでの効果も検証してみたい。
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