これまで造血幹細胞を制御するニッチ因子の研究が数多くなされてきた。その結果、種々のサイトカイン等のタンパク質や酸素分圧が、造血幹細胞の機能や数を制御する重要なニッチ因子であることが明らかとなった。ニッチ因子は造血幹細胞内の代謝物の構成を変化する代謝プログラムを起動して、造血幹細胞の「幹細胞性」―細胞周期の静止期性や自己複製能、多分化能など―を制御していることが研究代表者らの研究によって知られるようになっている。しかしながら、ニッチの細胞外における代謝物の構成や分布と、造血幹細胞をはじめとする血液細胞へと及ぼす影響はいまだ不明である。本研究では、マウス骨髄の代謝物の構成と分布を明らかにし、造血幹細胞ニッチ因子としての機能と作動機構の解明を目的とする。
第三年度は、前年度までの骨髄の代謝物構成と、ライフコースにおける各時期や病態における変容の実験検討の実施を継続した。また、同定された骨髄に豊富な代謝物の造血幹細胞への作用を検討するため、種々の代謝物を造血幹細胞培養に添加・除去して、代謝物が幹細胞維持に及ぼす影響の検討を実施した。培養条件はすでに確立している細胞周期の静止期性を維持する条件と、細胞増殖を誘導する条件、幹細胞分化を誘導する条件を併用しながらいかなる局面で効果を発揮するか検討を行った。表面マーカーのフローサイトメーターを利用した解析のみならず必要に応じて機能的な解析やイメージングサイトメーターによる動態解析も併用して多面的な解析を実施することで、骨髄内の代謝物の造血幹細胞に及ぼす生物学的な影響に関するデータセットを取得した。
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