研究課題/領域番号 |
18H02846
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤尾 圭志 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (70401114)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム修飾 / スーパーエンハンサー / 関節リウマチ / 滑膜線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
2019年度は滑膜線維芽細胞におけるeQTL解析を行った。2019年に報告された関節リウマチ滑膜のシングルセルRNAシークエンスのデータを合わせて解析すると、サイトカイン刺激滑膜線維芽細胞では、関節炎症と関連する滑膜線維芽細胞を特徴づける遺伝子の発現が誘導された。また、eQTL解析では、定常状態でeQTL効果のある関節リウマチ感受性多型と、サイトカイン刺激時にのみeQTL効果のある関節リウマチ感受性多型に分かれることが明らかとなった。なかでも関節リウマチ感受性多型rs28411352はサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のオープンクロマチンと一致し、転写因子MTF1の発現量に有意なeQTL効果を発揮することを同定した。またサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のスーパーエンハンサー領域には、MTF1の結合配列が集積しており、MTF1がスーパーエンハンサー機能に関与していることが推測された。サイトカイン刺激活動性とに、MTF1阻害薬APTO253を作用させるとサイトカイン刺激時のIL-6など炎症メディエーター遺伝子の発現を抑制した。またコラーゲン誘発性関節炎モデルマウスにおいて、APTO253は予防効果と治療効果を発揮した。この結果からMTF1がサイトカイン刺激時に形成されるエピゲノム修飾に関連し、関節炎症を誘導することが示された。またeQTL解析により、関節リウマチ感受性多型rs8133843はサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のオープンクロマチンと一致し、転写因子RUNX1の発現量に有意なeQTL効果を発揮することを同定した。これらの結果は、サイトカイン刺激滑膜線維芽細胞の機能ゲノム解析により、滑膜炎症と関連するスーパーエンハンサーの構造とその構成転写因子の同定が可能であり、その転写因子の阻害により、創薬標的の同定が可能となることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は滑膜線維芽細胞におけるeQTL解析を行い、定常状態でeQTL効果のある関節リウマチ感受性多型と、サイトカイン刺激時にのみeQTL効果のある関節リウマチ感受性多型に分類可能であることを見出した。さらに関節リウマチ感受性多型rs28411352はサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のオープンクロマチンと一致し、転写因子MTF1の発現量に有意なeQTL効果を発揮することを同定した。さらに関節リウマチ感受性多型rs8133843はサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のオープンクロマチンと一致し、転写因子RUNX1の発現量に有意なeQTL効果を発揮することを同定した。このようなサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞の広範なeQTL解析は、世界でも初の試みであるが、順調に進行している。またサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞のスーパーエンハンサー領域には、MTF1の結合配列が集積していること、サイトカイン刺激滑膜線維芽細胞の機能と、マウス関節炎がMTF1依存性であることを明らかにした。この知見は、機能ゲノム解析により、滑膜炎症と関連するスーパーエンハンサーの構造とその構成転写因子の同定が可能であり、その転写因子の阻害により、創薬標的の同定が可能となることを示しており、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は同定したeQTLや遺伝的リスクと関連のある転写因子が、滑膜線維芽細胞の治療反応性にどのように関与するかを評価する。関節リウマチの治療では、MTX, TNF阻害薬、IL-6阻害薬、T細胞共刺激阻害薬、JAK阻害薬などが標準治療となっているが、その作用機序は良く分かっていない。そこでサイトカイン刺激滑膜線維芽細胞にこれらの薬剤を作用させ、その際の遺伝子発現修飾やエピゲノム修飾を評価しつつ、今回同定したスーパーエンハンサーや転写因子の作用を軸に解析を進める。必要に応じで、ChIP-seqや免疫沈降ウェスタンブロットにより解析する。また単一の滑膜線維芽細胞がどのような細胞と相互作用することで、サイトカイン産生など活性化するかについて、一細胞イメージングで解析する。これまでに、滑膜線維芽細胞は一過性にサイトカインを産生するものと、持続的にサイトカイン産生をするものがあることが分かってきた。このような観察はより生体内の炎症に近い状況を再現し、その中で遺伝的リスクやエピゲノム修飾の役割の評価が可能である。このような解析により、関節リウマチの滑膜炎症に重要な、治療標的候補や層別化候補となる分子の同定が可能となると期待される。
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