研究代表者は、現行唯一の抗結核ワクチンであるBCGを接種した実験動物(アカゲザルやモルモット)を活用し、CD1依存的脂質免疫応答の個体レベルでの検証を通じて、結核菌脂質特異的CD1拘束性T細胞応答の実態を明らかにしてきた。他方、アカゲザルエイズモデルの解析から、脂質修飾を受けたウイルスタンパク質のリポペプチド断片に対する細胞傷害性T細胞応答の存在を発見し、リポペプチド抗原提示分子(LP1と総称する)を同定した。そこで本研究において、脂質やリポペプチドに対するT細胞応答の防御免疫における役割を解明し、それを効率的に賦活化する方策を確立することにより、脂質ワクチン開発の基盤確立を目指した。昨年度までに、TAPペプチドトランスポーターを欠損したLP1トランスジェニックマウス(アカゲザルLP1を発現)を樹立し、安定継代に成功していた。本年度、さまざまな免疫手法を試行した結果、B型肝炎ウイルスS1タンパク質に由来する精製リポペプチドを細胞壁に搭載したBCGを2回皮下接種することにより、ウイルスリポペプチド特異的CD8陽性T細胞応答を誘起できることを見出した。またこの研究過程で、BCG由来抗原をTAPペプチドトランスポーター非依存的に認識するCD8陽性T細胞の存在を発見し、その認識抗原の分子解明を進めた。他方、アカゲザルからヒトへの展開を目指し、ヒトLP1分子の同定とX線結晶構造解析を完了した。さらに、ヒトLP1トランスジェニックマウスを樹立し、上記の免疫手法により誘導されるヒトLP1拘束性T細胞応答の検証を進めた。その結果、ミリスチル化4-merリポペプチドに対するヒトLP1拘束性CD8陽性T細胞の存在を明らかにした。
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