研究課題/領域番号 |
18H02854
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松下 修三 熊本大学, エイズ学研究センター, 教授 (00199788)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HIV-1 / AIDS / 中和抗体 / 抗イディオタイプ抗体 / イディオタイプワクチン / エイズワクチン開発 |
研究実績の概要 |
抗ウイルス療法の進歩にも関わらず、世界のHIV感染例は増加している。HIV感染予防に有効なワクチン開発における最も困難な問題は、中和抗体が誘導されない点にある。近年、広範囲中和抗体(broadly neutralizing antibody: bnAb)が分離され、これを誘導する方法が模索されたが、標的となる前駆B細胞を刺激してもbnAbは誘導されず、ワクチン開発は進んでいない。我々はsingle cell sortingによって、中和抗体に対する多様な抗イディオタイプ抗体を作成する方法を確立した。抗イディオタイプ抗体は、中和抗体の抗原認識部位に反応し、一部は標的エピトープに類似した構造を取る。本研究の目的は、多様な抗イディオタイプ抗体パネルを作成して、中和抗体産生B細胞集団を解析し、その前駆細胞を同定することにある。さらに、同定した前駆B細胞を刺激し、中和抗体の誘導を試みる。我々は本年度までに、中和抗体をマウスに免疫し、中和抗体特異的抗イディオタイプ抗体産生B細胞をsingle cell sortingで分離する方法を用いて、2種類のCD4i抗体(916B2と4E9C)及びV3(1C10)に対する、抗イディオタイプ抗体をそれぞれ、10種類、8種類、4種類作成した。これらの抗イディオタイプ抗体パネルは、それぞれ免疫した抗体の結合抑制試験でスクリーニングした中から、交差抑制試験、交差結合試験などによって選別されたものである。得られたパネル抗体の大量調整、および詳細な交差反応性、交差抑制性に関するデーターを蓄積しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で明らかにできる課題には、以下の4つの段階が想定される。 1.中和抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作成し、交差反応性などの解析を行う。2.抗イディオタイプ抗体パネルを用いたB細胞集団の解析。3.中和抗体産生前駆B細胞の同定。4.新たなHIV中和抗体誘導ワクチンの作成。本年度は、研究の第一段階として、HIV中和抗体に対して、抗イディオタイプ抗体のパネルを作成し、交差反応性などの性質分析を行なった。すなわち、精製した中和単クローン抗体をマウスに免疫し、免疫した脾臓細胞から、中和抗体特異的抗イディオタイプ抗体産生B細胞をsingle cell sortingで分離する方法を確立し、2種類のCD4i抗体(916B2と4E9C)及びV3(1C10)に対する、抗イディオタイプ抗体をそれぞれ、10種類、8種類、4種類作成した。これらの抗イディオタイプ抗体パネルは、それぞれ免疫した抗体の結合抑制試験でスクリーニングした中から、交差抑制試験、交差結合試験などによって選別されたものである。得られたパネル抗体の大量調整、および詳細な交差反応性、交差抑制性に関するデーターを蓄積しているところである。また、得られた候補抗体を用いて、HIV感染症例の検体を解析し、中和エピトープを認識するB細胞をsingle cell sortingで取得し、抗イディオタイプ抗体への結合活性や中和抗体の標的であるエンベロープに対する結合活性の評価を開始した。すなわち、研究段階の第一段階をほぼ終了し、第二段階の検討に入っていることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
我々は本年度までに、中和抗体をマウスに免疫し、中和抗体特異的抗イディオタイプ抗体産生B細胞をsingle cell sortingで分離する方法を用いて、2種類のCD4i抗体(916B2と4E9C)及びV3(1C10)に対する、抗イディオタイプ抗体をそれぞれ、10種類、8種類、4種類作成した。現在、パネル抗体の大量調整を行うとともに、その性質に関して詳細な検討を加え、抗体の反応エピトープの分類を試みている。さらに、変異エンベロープ蛋白を用いて、これらのパネル抗体のepitope mimicについて検討する。これらの検討に基づいて、第二段階の中和抗体産生前駆B細胞の同定を目指したB細胞集団の解析に最適なクローンを選別する。これら選別された抗体を用いて、HIV非感染者、及びHIV感染患者サンプルにおける前駆B細胞を含むB細胞レセプタ(BCR)に交差するイディオトープを持つ細胞を同定し、single cell sortingで細胞を分離し、ENV抗原への反応性、中和活性を検討する。これらの検討の中から、中和抗体産生前駆B細胞の同定を目指す。さらに、H1-loopやH2-loopなどCD4分子結合後に構造変化を起こして作られるウイルスエピトープの解析のため、FabやscFvの作成に進み、霊長類モデル実験が提案できるデーターの取得を目指す。一方、数種類のbnAbを作成・精製し、免疫源としての適性を評価して選択し、同様の手順で抗イディオタイプ抗体パネルの作成を試みる。パネル抗体が得られれば、HIV感染症例の検体を解析し、中和エピトープを認識するB細胞をsingle cell sortingで取得し、抗イディオタイプ抗体への結合活性や中和抗体の標的であるエンベロープに対する結合活性を評価する。また、血清レベルでbnAbを含む中和抗体持つ症例を同定する。
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