研究課題
摂食により腸内分泌細胞から分泌されるインクレチンはグルコース濃度(血糖)依存性にインスリン分泌を増強する。この作用を利用して開発されたインクレチン関連薬は現在糖尿病治療薬として広く使用されているが、一部の糖尿病や肥満症で応答不全(ノンリスポンダー)が認められており、その機序は不明である。本研究では、1) 糖尿病におけるインクレチン応答性インスリン分泌不全の機序を解明し、2) それを標的とした治療戦略を確立することを目的とする。平成30年度は以下の研究を行った。1) 糖尿病におけるインクレチン応答性インスリン分泌不全の分子機構の解明インクレチン応答不全を有する肥満糖尿病モデルラットの膵島でO-Nアセチルグルコサミン(O-GlcNAc)化の亢進が認められることから、まず膵β細胞株MIN6-K8を用いてO-GlcNAc修飾がインクレチン応答性に及ぼす影響を検討した。また、インクレチン応答性に関与する分子の同定のためにプロテオーム解析を行う条件をMIN6-K8を用いて決定した。偽膵島のメタボローム、トランスクリプトーム解析からインクレチン応答性誘導に関与する分子を明らかにした。2) インクレチン応答性インスリン分泌不全を標的とした新たな治療戦略の確立糖尿病治療薬であるスルホニル尿素薬とcAMPおよび、cAMPに関連するチャネルのリガンドの構造をクエリとしたインシリコ類似化合物検索およびインスリン分泌アッセイによるスクリーニングにて得られた候補化合物について構造活性相関解析を行い高活性化合物を得た。これらの化合物のインスリン分泌能および糖尿病モデル動物における効果を検討した。また、細胞内シグナルに対する効果の検討から、これらの化合物が主にEpac2以外の標的に作用していることが示唆されたため、細胞内標的探索を目的とするケミカルプロテオミクスのためのタグ付加部位の検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通りに進行しているため。
1) 糖尿病におけるインクレチン応答性インスリン分泌不全の分子機構の解明平成30年度に開始したMIN6-K8細胞を用いたプロテオーム解析を引き続き行う。具体的にはインクレチン刺激によるタンパクのリン酸化とO-GlcNAc修飾が競合する分子を膵β細胞株のプロテオーム解析により同定する。この解析のための実験条件は前年度にほぼ検討済みである。MIN6-K8細胞のプロテオーム解析から得られた情報をもとに、正常ラットと病態モデルラットの膵島でO-GlcNAc修飾の異なる分子を同定し、当該分子の機能解析によりインクレチン応答性における役割を明らかにする。2) インクレチン応答性インスリン分泌不全を標的とした新たな治療戦略の確立化合物の標的探索のためのケミカルプロテオミクスを引き続き行う。タグ付加の部位について、今後いくつかの部位を検討して決定した後、プルダウン法により化合物と標的タンパク質の複合体を精製し、プロテオーム解析により標的分子を同定する。同定された標的分子について、機能解析を行いインスリン分泌における役割を明らかにする。また、前年度までに得られた高活性化合物について、インスリン分泌特性や病態モデル動物における効果をより詳細に解析し、有効性を明らかにする。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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