本研究は、短腸症候群などの疾患で重篤な腸管不全を呈する患者に対し、培養オルガノイド移植によって小腸機能再生を図る新しい治療技術の基礎を築くことを目的とした。このために、一定区域の大腸内腔の上皮を小腸上皮に置換することで、大腸に小腸機能を賦与して小腸機能再生を図る技術を動物モデルで検証することを目指した。具体的には、生きた動物の大腸上皮を安全かつ効率的に解離し、ここへ別に準備する小腸上皮オルガノイドを移植する手術技術を確立し、上皮置換によるハイブリッド腸の作成技術開発を目指した。 2020年度には、マウスモデルを用いて、近位・遠位など部位別に採取した小腸上皮細胞を大腸へ移植し、移植片の形態や分子発現を解析する実験を継続した。小腸上皮が移植によっても発現を維持する遺伝子群、あるいは異所環境に応じて発現を変動させる遺伝子群を明らかにし、オントロジー解析などから、小腸上皮細胞が固有性を維持する分子機構が明らかとなった。さらにラットモデルを用いる研究への応用を図った結果、マウスと同様に標的大腸部位の化学的上皮剥離が可能であることを見出したほか、短腸症候群ラットモデルを新規に作成することにも成功した。 本研究の最終年度である2020年度においては、複数の国内学会でこれら成果の公表も積極的におこなった。 今後の本研究の進展により、重篤な腸管不全に対し、経口摂取した栄養を生理的状況に近い残存大腸で吸収可能とする新しい治療開発が期待できるものと考える。本研究で提案する技術は、既存の大腸組織を足場として利用することにより、血流確保術を必要とせずに広大な小腸粘膜を再生できる可能性を有する点において独創的なものであり、今後も引き続き研究を継続していきたいと考えている。
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