研究課題/領域番号 |
18H02869
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥山 宏臣 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30252670)
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研究分担者 |
樋渡 勝平 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (10789259)
中山 泰秀 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 客員研究員 (50250262)
岩井 良輔 岡山理科大学, 付置研究所, 講師 (60611481)
出口 幸一 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (00747082)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気管再生 / 生体内組織形成術 / 軟骨再生 |
研究実績の概要 |
(目的)昨年度は、生体内組織形成術により作成したBiosheet(以下BS)とBiotube(以下BT)を用いて食道形成ならびに気管置換術を行い、BSとBTが臓器再生の足場として有用であることを示した。本年度はBSを用いた気管形成術を行い、気管再生過程を観察した。またBTと再生気管軟骨輪を組み合わせたHybrid-BTを作成し、気管置換術の可能性を検討した。 (方法)実験1(BSによる気管形成):ビーグル成犬の皮下に鋳型基材を埋め込みBSを作成。頚部気管に1×2cmの欠損孔を作成し、BSで気管形成を行い、1,3,12か月後の組織学的評価を行った。 実験2(軟骨リングを組み合わせたBTによる気管置換):独自開発の細胞自己凝集化技術を用いて作製した培養軟骨輪をBTと組み合わせ、軟骨輪がBTで連結されたHybrid-BTを開発した。ラットを対象に、このHybrid-BTを用いて気管置換術を行い、置換した気管の再生過程を観察した。 (結果)実験1:BSは十分な柔軟性と強度を有し全例長期生存した(n=9)。移植したBSの組織学的評価では、術後1か月で線毛円柱上皮の再生を認め、3、12か月には軟骨細胞・基質の再生を認めた。実験2:ラット2例の長期生存が得られた。1ヶ月でBT内腔に気道上皮が再生した。軟骨輪の構造は保たれ、軟骨細胞の生着も確認できた。8ヶ月ではBT内腔は気道上皮で完全に覆われ、杯細胞の再生も見られた。培養軟骨は生着し、成熟した軟骨組織構造・基質を維持していた。 (結論)Biosheetによるイヌの気管形成術で、気管壁の再生過程が確認できた。Biotube を培養軟骨輪と組み合わせることで管腔保持力が強化され、生理的な気道の陰圧下においても、置換した再生気管のか依存性が向上し長期生存が得られた。また移植したBTには気管上皮や軟骨の再生を認め、気管再生の足場としての有用性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生体内組織形成技術により作成したBiotubeを、吸収性ステントや軟骨リングを組み合わせることで管腔保持力を強化した2種類の再生気管を作成して、同所性の気管置換術を行い長期生存が得られた。 1. 犬における吸収性ステント内包Biotubeによる気管置換(3-12ヶ月後の開存性と組織再生を評価) 2. 軟骨リングを組み合わせたBiotubeによる気管置換(6w,32wの長期生存が得られ、組織再生を評価) 現在いずれのモデルにおいても、摘出した再生気管標本の免疫組織染色、緑色蛍光タンパク標識などを含めた詳細な評価を行なっているところである。Biotubeの生体内における長期の気管再生過程を明らかにして学会で発表予定である。また吸収性ステント内包Biotubeに関しては特許を出願して受理された。いずれもの再生気管においても、全周性・同所性置換術における長期生存例が得れている。これまで再生気管による置換術における長期生存の報告は極めて少なく、気管再生領域における大きなインパクトとなりうる。「犬における吸収性ステント内包biotubeによる気管置換」は昨年度に英文誌に論文発表済みである。現在、「軟骨リングを組み合わせたbiotubeによる気管置換」の論文作成中であり、英文誌への投稿を準備中である。論文発表、特許取得などの成果が着実に得られており、当初計画した以上の順調な成果をあげている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに犬ならびにラットにおける再生気管による気管全周性、同所性置換術の長期生存例が得られた。これらの実験結果より、Biotubeを用いた再生気管による気管置換術の可能性が示された。今後はさらにラットモデルを確立して、Biotubeにおける詳細な気管再生機序を解明する予定である。 これまでのラットモデルの問題点としては、気管置換術モデルの生存率が低いことが挙げらる。生存率が低い原因は、気管内腔の狭いラットにおいては、移植した全周性気管は分泌物や浮腫などで術後早期に容易に閉塞して、長期生存例を得ることが困難であった(これまでの実験では2例の長期生存が得られた)。そのため、移植した気管の再生過程の詳細な解析ができなかった。 そこで今年度は、ラットにおけるBiosheetを用いた気管形成モデルを確立する。気管の一部をBiosheetにより置換する気管形成術は、全周性に気管を置換するモデルとは異なり、術後早期の気道閉塞を引き起こすリスクが低いので、高い生存率が期待できる。このモデルを用いてコラーゲン繊維を主体としたBiosheetを足場とした気管再生過程のより詳細な観察を行う予定である。さらに免疫組織染色、緑色蛍光タンパク標識などの方法も用いて詳細な再生機序を解明できれば、より効率の良い気管再生技術の確立が期待できる。またこれら一連の実験により得られた成果は、気管以外の臓器再生にも応用可能であり、全く新しい臓器再生技術の開発にも展開することが可能となる。また、吸収性ステントや軟骨リングを組み合わせた再生気管のスケールアップを行い、大動物を用いた慢性実験で長期の安全性を確認して、臨床応用へと展開する予定である。
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