研究課題
現在までのT細胞輸注療法が患者自身の細胞の利用に限られ、多くの患者にタイムリーに均質な治療を提供することを阻んでいる問題点に鑑み、申請者らは輸注T細胞の内因性TCR発現や MHC発現を抑制し、非自己のT細胞を利用可能とする技術の開発を進めてきた。本研究ではこれまでの研究を発展させ、T細胞のみならずNK細胞等も含めた宿主の各種免疫ネットワークからの攻撃を回避する高度な「ステルスT細胞」の開発を進め、腫瘍に対するT細胞療法の汎用化に資することを目指す。またこの技術をT細胞以外の細胞種にも拡大し、移植治療の際に宿主の免疫ネットワークに認識されない「ステルス細胞」作成技術を開発し、免疫抑制剤に頼らない次世代の移植医療の開発を目指す。平成30年度には以下の研究実績が達成された。1. ゲノム編集技術を用いた移植細胞のMHC発現抑制を目指し、ベータ2ミクログロブリンに対するガイドRNAを持ったCRISPR-Cas9を作成し、これをレンチウ イルスベクターにてヒト肝細胞株HEPG2に感染させた。ベータ2ミクログロブリンの発現欠損により、MHC class Iの発現を失うHEPG2が出現した。これらの細胞をMHC class Iに対する抗体とビーズを用いてMHC classs I欠損株を純化し培養することに成功した。2. NK細胞の抑制性受容体のリガンドであるHLA-E分子の強制発現系を構築した。HLA-E遺伝子と、ベータ2ミクログロブリン遺伝子をスペーサー配列で連結し、レトロウイルスベクターに組み込み融合分子として発現する系を構築した。293T細胞にレトロウイルスベクターを感染させることにより効率よくHLA-E分子を細胞表面に発現させることに成功した。またヒト末梢血由来リンパ球に同レトロウイルスを感染させることにより数%ではあるがHLA-E分子を細胞表面に発現させることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
ゲノム編集によりMHC class I発現を消失させる方法がヒトT細胞と肝細胞株HEPG2との両方で成功し、T細胞輸注療法と移植治療の両方で非自己細胞の利用を可能とする細胞改変が順調に進んでいる。また、MHC class I分子の消失に伴うNK細胞の抑制性受容体のリガンドであるHLA-E分子の強制発現系の構築に成功している。
ゲノム編集によりMHC class I発現を消失させる方法がヒトT細胞と肝細胞株HEPG2との両方で成功しているので、今後これらの細胞が非自己T細胞からの認識攻撃を受けなくなること、移植の際に拒絶されにくいことをin vitro、ini vivo双方の系で検証してゆく予定である。293T細胞及びヒト末梢血由来リンパ球ににレトロウイルスベクターを用いてHLA-E分子を細胞表面に発現させることに成功しているので、今後高効率のレトロウイルスを作成し発現効率を向上させる。その上で発現細胞を濃縮し、HLA-E分子を細胞表面に発現する細胞がNK細胞からの攻撃を回避することをin vitro、ini vivo双方の系で検証してゆく予定である。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (4件) 備考 (1件)
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