研究課題/領域番号 |
18H02874
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
小池 直人 横浜市立大学, 医学研究科, 客員教授 (50301081)
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研究分担者 |
田所 友美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (20507644)
谷口 英樹 東京大学, 医科学研究所, 教授 (70292555)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高次肝組織 / 神経系 / 門脈域 / iPS |
研究実績の概要 |
これまで我々は、ヒトiPS細胞由来の肝前駆細胞(hiPS-HE)、血管内皮細胞(hiPS-EC)、間葉系幹細胞(hiPS-STM)を共培養しvitroで作成した肝芽をマウス内に移植して、障害肝マウスの生存率を向上させるほどの、アルブミン等の合成や代謝機能を有するヒト型微小肝組織を作成する事に成功している。今回、さらにhiPS細胞から誘導した神経幹細胞(hiPS-NCC)を加え、これまでできていなかった胆汁分泌可能な胆管、および動静脈、神経からなる門脈域を有する微小肝組織構築を試みた。培養上清中やマウス血中のアルブミン値を、微小肝組織の機能の目安としているが、初年度ではhiPS-NCCをhiPS-STMと同程度加えたところ、かえって機能の低下が認められたが、4種類の細胞の割合や、混合のタイミングを調整したところ、昨年度は共培養した細胞が3種類の時より、hiPS-NCCを加えた4種類の方が高いアルブミン産生能が得られる条件が確立できた。門脈域の構築に関しては、さらに、各細胞の割合のみならず、培地や移植場所を変えたりしてプロトコルの改良中である。 適切なプロトコル開発の一助として、加えるhiPS-NCCの割合、タイミングや、混入法を検討するために、生体肝組織内での門脈域の構築過程を胎生期のマウスから生後早期のマウスを用い組織標本と神経、胆管、血管のマーカーに対する免疫染色を行うことにより再検討した。その結果、肝内胆管と神経は共に、出生前後に肝門近傍のductal plateから発生し、門脈域を形成しながら、肝末梢の門脈域に向かって密度が上昇していくことが観察された。肝内神経の構築は胆管の発育にやや遅れてはいたが、門脈域を持つ微小肝組織の再生に関して神経細胞を加えることは有用である可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで、hiPS-HE、hiPS-EC、hiPS-STMに比べ、hiPS-NCCを分化誘導することは、これまで報告されているいくつかの分化誘導法でも20%程度の効率しかできず、効率よく増殖性の高い神経幹細胞を分化誘導することが困難であった。しかし、論文に記載されていない細かな諸条件などを最適化しながら効率は最大80%まで向上している。 マウスの実験から肝内で微小胆管が構築されるのは生まれる直前E17.5で、初期には肝門近傍のductal plate内での発生が認められた。生後も肝内では微小胆管の再構築が進行し、門脈域が形成され、肝末梢の門脈域に向かって小葉間胆管の密度が徐々に上昇することが確認できた。神経系に関しては、E15.5の標本で肝門部胆管周囲に神経線維を確認することができたが、肝組織内には胎生期に神経線維は確認できなかった。肝内神経は胆管にやや遅れて出生後、胆管同様肝門近傍のductal plateから発生し、門脈域を肝末梢に向かって密度が上昇していくことが観察された。 vitroで肝芽を作成する際の各細胞の比率は、hiPS-HE:hiPS-EC:hiPS-STM:hiPS-NCC=10:7:1:1を基本に変化させ試行錯誤している。hiPS-NCCと他の細胞との共培養する時間を長くすると、STMに性格が変化することがあるため、NCCを後から添加する方法を検討したが、マウスの実験で、門脈域の神経線維が、小葉間動脈に伴走して進展しているように観察されたので、NCCと共にECを後から加える方法を検討している。すでに、ECとNCCのみを共培養すると、NCCがECをcoverするように発育することが、vitroの3次元培養で確認された。こうして作成した微小肝芽のアルブミン産生能も向上しつつあり、順調な進捗であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
動静脈や、門脈、胆汁分泌が可能な胆管構造を有するヒト型高次肝組織の構築を目指す為に、より安定してhiPS細胞から肝組織構成細胞への分化誘導ができるプロトコル改変を目指し、クローンの変更、細かな諸条件の検討、他の文献のプロトコルの検討などを実施する。さらにヒトの再生医療への利用を目指すため、改良したプロトコルを基盤に肝芽形成実験を行う。 我々の検討では、マウス胎生期、および、生後早期の肝を用いた観察から神経線維の肝外から肝門部胆管周囲を経由して肝実質内への侵入が生後の門脈域の構築に関与する可能性が示唆されている。しかし、ヒトのabortionの検体を用いたこれまでの文献では胎生期にすでに神経線維が存在している報告もある。これらの結果を踏まえて、今後、肝芽作成時の細胞数の比率を変えて検討するだけでなく、神経幹細胞のシート上に肝芽を植えて神経細胞の肝芽内への迷入をクラニアルウィンドウ内で可視化して観察する実験が必要と考えている。また、さらに長期安定して生体内で機能する高次肝組織の構築を目指すために、移植部位、移植方法にも検討を重ねる予定である。また、新たに構築できた神経系を有する高次肝組織の機能を評価するために、肝障害マウスを用いた実験が必要と考えている。
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