研究課題
膵癌の5年生存率は10%と極めて低く、その治療法開発は社会的緊急性、重要性が高い。膵癌組織の間質に存在する繊維芽細胞である膵星細胞(PSC)は活性化することにより膵癌細胞との癌間質相互作用を介して癌細胞の増殖、転移、浸潤を促すことを以前より報告してきた。本研究では複数のスクリーニング系を用いてPSC活性化抑制を誘導するHIT化合物のスクリーニングを行い、PSC抑制剤およびオートファジー抑制剤の探索を行う。本年度は、当科で手術を行った膵癌患者より得られる切除標本を用いて、 ヒト由来PSCを20株以上作成した。作成された細胞は、PSCの特徴とされるMyofibroblast様の形態を呈し、α-SMA, CD90が陽性であることを確認している。また、PSCにhTERT, SV40 LargeTを導入し、不死化PSCの(imPSCs)の作成にも成功した。このimPSCを用いて活性状態の評価が可能なスクリーニング系を作成した。PSC 活性化の抑制は脂肪滴の発現で表現される。活性化 PSC に対してオートファジー抑制剤であるクロロキンを添加すると脂肪滴が明瞭に発現(=PSCの休眠化)することを示した。また脂肪滴が発現した際には実際にコラーゲン、FN 発現が抑制され、PSC の機能が低下していることも確認している。これらの結果から、脂肪滴の発現は PSC 活性化抑制の指標として有用である事がわかる。申請者は脂肪滴発現をイメージングシステム in cell analyzer 2000 を利用し、細胞あたりの蛍光強度を数値化し、蛍光強度を指標とした化合物スクリーニング系を作成した。今後は、このスクリーニング系を用いて化合物スクリーニングを行い、候補化合物の絞りこみを行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度はこの研究の基盤となるPSCの樹立とスクリーニング系の作成を行った。PSCは継代を繰り返すことにより劣化し増殖能が低下する問題があり、長期観察が必要となる in vivoやスクリーニングでの使用には問題があったが、PSCにhTERT, SV40 LargeTを導入することで、長期観察に適した不死化PSCの(imPSCs)の作成に成功した。またスクリーニング系の精度や再現性についても十分であることを確認しており、本研究は概ね順調に進展していると考える。
本年度作成したスクリーニング系を用いて、東京大学創薬オープンイノベーションセンターが保有する化合物ライブラリーを利用し、PSC 活性化を抑制する新薬シーズの発見を行う。その中から得られた候補化合物に関して、スクリーニング通りにPSCの活性化が抑制されるかを評価する。具体的には電子顕微鏡や脂肪染色を用いた脂肪滴の発現確認、Western blot、蛍光免疫染色によるα-SMA、コラーゲン、FN発現の低下等を確認する。さらには候補化合物がPSCおよび膵癌の浸潤、転移に与える影響を in vitro, in vivo実験で評価する。
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International Journal of Cancer
巻: 144 ページ: 1401~1413
10.1002/ijc.31775