パーキンソン病に対し人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来ドパミン神経前駆細胞による細胞 移植治療の治験が本邦で開始された。一方、移植されたドナー神経がホ スト脳の神経と 機能的なシナプスをどのように形成していくのか、また移植細胞が免疫反応を乗り越えてホ スト脳にどのように生着していくのかということは 詳細には解明されていない。ヒト多能性 幹細胞研究の進歩により各種神経細胞、およびその他の脳の構成細胞(グリア、ミクログリア、脳血液関門等)を誘導する事が可能となった。ヒト脳での特定神経細胞とその周辺細胞 の相互作用(シナプス形成や免疫反応など)を解析できるin vitro のシステムが構築でき れば、神経科学、医療応用に貢献できる。本研究ではドパミン神経前駆細胞移植の脳内環境 を例にヒト細胞でのin vitro モデル系を構築し、移植後のドナー・宿主間のシナプス形成、および脳での免疫反応(特にミクログリアの関与に注目)のメカニズムを解明する。パーキンソン病への移植治療では、移植されたドパミン神経は宿主の被殻に存在する medium spiny neuron (MSN)とシナプスを形成し、機能を発揮すると考えられている。治験で使用するHLAホモ型iPS細胞と同型のiPS細胞株 を含め、複数のiPS細胞、ES細胞からMSNおよびドパミン神経を誘導した。このように誘導したhiPSC-MSNとhiPSC-DAをculture deviceを用いて共培養する系を確立した。これらの組み合わせにより自家移植、他家移植、HLA適合移植の組み合わせについて、シナプス形成や神経突起の伸長などについて解析している。さらに本年度は多能性幹細胞からのMSN誘導に関し、P7C3-20、ISX-9を添加すると、神経分化誘導効率の上昇と安定化することを発見した。これらの添加によりこれまで以上に効率よくMSN誘導ができるようになった。
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