研究課題/領域番号 |
18H02915
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
中瀬 裕之 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (10217739)
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研究分担者 |
中村 光利 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (00305715)
中澤 務 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (00772500)
松田 良介 奈良県立医科大学, 医学部, 学内講師 (60453164)
西村 文彦 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (70433331)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | glioblastoma / natural killer cell / EGFRvIII-CAR / iPS cell |
研究実績の概要 |
未だ満足のいく治療法が確立されていない膠芽腫に対する根治療法の確立を目指し、induced pluripotent stem cell (iPSC) にレンチウイルスベクターを用いてepidermal growth factor receptor, transcript variant III (EGFRvIII) 特異的 chimeric antigen receptor (CAR) 遺伝子を導入し、 natural killer 細胞 (NK) へ分化誘導することで EGFRvIII 特異的 CAR発現 iPS-NK (EGFRvIII-CAR発現 iPS-NK) を作成し、その安全性と抗腫瘍効果を検討する。 まず、EGFRvIII-CAR-iPSC について多能性幹細胞としての特性、染色体ならびにゲノム DNA の損傷について解析を行った。次に、EGFRvIII-CAR-iPSC の品質確認として、既に樹立した EGFRvIII-CAR-iPSC について、RT-PCR による多能性解析を行った。更に、NOGマウスを用いて in vivo における奇形腫形成能も評価した。また、G-band 法による染色体分析、次世代シークエンサーによる iPS 細胞のゲノム DNA 解析により機能的変異、挿入・欠失、コピー数変異、構造変異を認めず、その安全性も確認した。 EGFRvIII-CAR-iPSC は2か月以上継代培養すると CAR の発現が低下することが判明したため、必要に応じて磁気ビーズを用いてその純度を高める様にした。次に、安定株を樹立するためにシングルセルクローニングも並行して施行した。 現在、EGFRvIII-CAR発現iPS-NK に関して、in vitro/in vivo における膠芽腫に対する抗がん効果を評価すると同時に、その安全性の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト T 細胞由来 iPSC は Human iPS cell Generation Episomal Vector kit を用いて作製している。EGFRvIII 抗体の scFv と CD28, 4-1BB, CD3ζの一部を連結した CAR を搭載した非増殖型レンチウイルスを用いて、EGFRvIII 特異的 CAR 発現-iPSC(EGFRvIII-CAR-iPSC)を樹立した。BD FACS Calibur による FACS 解析、高性能蛍光顕微鏡を用いた遺伝子発現解析、HiSeq PE-150(illumina)による全ゲノム遺伝子解析による品質・安全性の検定では、機能的変異、挿入・欠失、コピー数変異、構造変異は確認されず、安全性の高い EGFRvIII-CAR-iPS が樹立できている。次に、高度免疫不全 NOG マウスの皮下に iPS 細胞を移植し、自己増殖能(安定した増殖)、幹細胞特性(遺伝子発現)、多能性(多分化能)も確認できた。 EGFRvIII-CAR-iPSC は 2か月以上継代培養すると CAR の発現が低下することが判明したため、磁気ビーズを用いてその純度を高めることでCAR の発現を保っている。フィーダー細胞を用いない chemical-defined induction method による EGFRvIII-CAR-iPS から造血幹細胞への誘導方法も安定しており、シングルセルクローニングも施行し、安定株も樹立でき、EGFRvIII-CAR-iPS から EGFRvIII-CAR発現iPS-NK への分化誘導も順調である。in vitro で得られた高度免疫不全 NOG マウスへ2種類の膠芽腫細胞株(EGFRvIII 発現あり/発現なし)移植も技術的に安定し、in vivo における膠芽腫に対する抗がん効果も評価可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
樹立した EGFRvIII 特異的 CAR 発現-iPSC(EGFRvIII-iPS)におけるレンチウイルスの挿入領域を確認する。次に、EGFRvIII-iPSをC3H/10T1/2 細胞と VEGF、SCF、Flt3L 等の存在下で 14日間培養し、造血幹細胞へ分化誘導する。臨床応用を目指して、低接着性培養プレートで胚様体を形成させ、 hBMP-4、hbFGF 存在下で造血幹細胞への誘導も並行して実施する。 著者らがこれまで臨床応用してきた高純度 NK 細胞、γδT 細胞をはじめとする免疫細胞の培養技術に基づき、誘導した造血幹細胞から EGFRvIII-CAR発現 iPS-NK への誘導を行う。造血幹細胞を IL-3、SCF、IL-7、IL-15、Flt3L 等の存在下で誘導培養を 21日間程度行う。また、IL-2 等を加えることでさらなる効率的な誘導法の確立も並行して行うことができる。誘導効率が低い場合には、必要に応じて EL08-1D2 細胞をフィーダーとして使用することで誘導効率が上げることも確認している。 必要時に十分量の細胞を供給できる"off-the-shelf" 製剤としての、EGFRvIII-CAR発現 iPS-NK の確立のため、以下の方法で細胞特性ならび抗がん効果を確認する。 ① 細胞表面抗原解析、② 目視算定もしくは蛍光色素を用いないリアルタイム細胞分析装置 を用いた細胞増殖抑制試験、③ 蛍光色素を用いた細胞傷害性試験、④ フローサイトメータを用いたアポトーシス誘導効果解析、⑤ in vitro における EGFRvIII-CAR発現 iPS-NK の抗腫瘍効果のデータに基づき、EGFRvIII 発現あり/発現なし2種類の膠芽腫細胞株を高度免疫不全 NOG マウスの前頭葉に移植し、in vivo における抗腫瘍効果の解析も行っていく。
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