研究課題
特発性正常圧水頭症(iNPH)は認知障害,歩行障害などの症候を呈する高齢者特有の疾患で,髄液のターンオーバー障害を原因とし,シャント術が主な治療である.しかし診断基準を満たし正しく診断されても,シャント後の症状改善にばらつきがあり,特にアルツハイマー病にみられるアミロイドβ蛋白 (Aβ)やリン酸化タウ蛋白 (p-tau)の脳実質の沈着が認められる病理像を呈する場合,症状改善が乏しいことが判明した.認知障害では脳活動で産生したAβなどの神経毒性蛋白が原因と推察される.本研究では,アルツハイマー病理脳における病的神経毒性蛋白の髄液排泄を学術的「問い」として研究を進め,iNPH患者の脳脊髄液を用いてバイオマーカー診断およびアミロイドPETによる脳画像検査よりアルツハイマー病(AD)病理を併存すると考えられるiNPH患者を同定し,Aβ42モノマー,Glu22-Asp23のターン構造を有する毒性コンホマー,高分子オリゴマー(9量体以上)をシャント前後で比較解析した.結果iNPH患者における高分子Aβオリゴマー測定は世界初の報告であり,アルツハイマー病やパーキンソン病などの他の神経変性疾患と明確に鑑別し得るバイオマーカーであることが判明した.iNPH患者を髄液中p-tau濃度(カットオフ値30pg/mL)により,AD病理併存群を分類し,シャント後12ヶ月の髄液所見を解析したところ,AD病理を併存しない群は 高分子Aβオリゴマー濃度の低下が認められた.本結果は,iNPH病態で髄液シャントにより髄液のターンオーバーを早めクリアランスが促進しAβ凝集化が抑制されたと考える.一方,AD病理を併存したNPH病態では,高分子Aβオリゴマーに変動が認められず,髄液のクリアランス促進効果が認められなかった.高分子量蛋白の脳実質から間質液,髄液への移行に問題が生じている可能性があると推察する.
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究結果により,アルツハイマー病理あるいはパーキンソン関連の変性疾患をを併存する特発性正常圧水頭症患者(iNPH)はシャント介入後一旦改善が得られた後、3年長期成績は術前と変わらない症状悪化をきたし、変性疾患の進行は本病態の予後に無視できない影響を及ぼすことが判明した。またバイオマーカーにおいては世界初となるiNPH患者における高分子Aβオリゴマー測定をの報告し,アルツハイマー病やパーキンソン病、進行性核上性麻痺など、臨床症状が類似した他の神経変性疾患を明確に鑑別し得るバイオマーカーであることが判明した.
今年度得られた知見から,アルツハイマー病理下では神経毒性蛋白の脳実質からの排泄障害が生じていることが判明した.高分子量蛋白の脳実質から間質液,髄液への移行に問題が生じている可能性があると推察する.動物モデルを作成し,トレーサー実験を行い,タンパク質の分子量の違いにより,クリアランスが異なるのか,またシャントにより髄液クリアランスを促進させることが,どの程度の分子量の大きな蛋白まで排泄を促すことができるのかを確認する.すでに,NPH病態の動物モデルを作成しており,脳実質内にトレーサーを注入した解析を開始している.
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件) 備考 (2件)
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