研究課題/領域番号 |
18H02918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池淵 祐樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20645725)
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研究分担者 |
本間 雅 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60401072)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / 軟骨代謝 / W9ペプチド |
研究実績の概要 |
軟骨細胞の初期分化に対して強い促進効果を示すことが確認された、特定の修飾を施したW9ペプチドを用いてプルダウンを行い、W9ペプチドと相互作用している分子の同定を試みた。光応答性のビオチン修飾法、あるいはW9で刺激したマウス軟骨細胞由来ATDC5細胞から粗膜画分を調製してサンプルを濃縮的に回収し、フーリエ変換型の質量分析計を用いてタンパク質の網羅的な同定を行ったところ、W9刺激サンプルで再現性良く検出されるタンパク質が数種類得られた。これらのタンパク質をコードする遺伝子の発現をshRNAを用いて抑制し、その条件下でW9による刺激を行うと、複数の遺伝子の発現抑制下で軟骨細胞の分化が阻害されることが分かった。軟骨細胞の初期分化を促進する作用が知られるTGFb1での刺激に対しては影響を与えないことも確認され、いくつかの分子がW9の結合標的であることが示唆された。 一方で、種々の阻害剤を用いた検討から、W9による軟骨細胞分化作用はTGFb1経路に対する阻害剤で抑制がかかり、W9の標的分子の下流シグナルとTGFb1経路とのクロストークが想定される。様々なシグナル分子のリン酸化状態をウェスタンブロット法、また、より網羅的なリン酸化プロテオミクスの手法で探索を行うと、ERKを始めとした複数のシグナル分子がW9刺激によって活性化することが観察された。今後、これらの詳細を解析することで、非常に強く軟骨細胞の分化を促進するW9ペプチドの作用機序の解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概ね当初の計画通りに進展している。結合標的分子の同定や細胞内シグナル経路の活性化プロファイルの解析に必要となるプロテオミクス、リン酸化プロテオミクスの手法も構築されており、今後の解析に向けて支障はない。初年度に同定されたW9との結合標的分子候補に関して、その寄与をより厳密に検証するためにCRISPR/Cas9を利用したゲノム編集法の準備も進んでおり、一連の解析を進めることでW9によるシグナル入力機構の解明に繋がることが期待される。 最終的に、物性の問題から全身への投与が困難なW9ペプチドに代わる、その活性を再現したアゴニスト型の抗体分子の開発に関しても、標的分子さえ決定されれば抗体の作出から親和性の改善までの手法はすでに確立できており、当初の計画以上に進捗が得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度での解析で、修飾したW9分子を用いたプルダウンとその相互作用分子群のショットガン・プロテオーム解析による一斉解析により、複数の候補分子がW9ペプチドと結合しうることが確認された。一連の遺伝子をshRNAを用いてノックダウンし、W9ペプチドによる軟骨細胞分化に対する影響を確認したところ、数種類の遺伝子ではW9による作用選択的にその活性が低下することが確認された。本年では、それらの遺伝子の関与をより厳密に検証するため、CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集によってマウス軟骨細胞株であるATDC5をホストにノックアウト細胞を樹立し、修飾W9ペプチドによる分化促進作用が完全に消失すること、また当該遺伝子を再導入し、その活性が回復するか否かを検証する。この検証でW9による分化促進作用への関与が確認された場合には、やはりCRISPR-Cas9でのKOマウスの作出を行い、in vivoでの表現型解析を計画する。 また、W9による結合標的分子が複数にまたがる可能性も想定しており、特定の分子をハブとして複合的なシグナルソームを形成している場合には、上記の検証のみではW9の作用機序解明が十分に達成できない。試薬存在下で多量体を形成可能なタグ配列を利用し、W9結合分子候補の細胞外領域にこれらを付与したキメラ遺伝子を発現させたATDC5細胞を試薬で刺激し、W9と同様の分化促進が観察される組み合わせを探索する。同時に、異なる分子を同時に認識可能なバイスペシフィック型抗体等も作成を進め、同様の検討を実施する。
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