W9ペプチドの結合標的候補となるいくつかの遺伝子に関して、CRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子欠損させたモデル細胞を複数作出し、W9ペプチドへの応答性の変化を検証した。shRNAを用いた一過性のノックダウン実験と同様に、数種の遺伝子欠損によって、W9ペプチドの持つ軟骨細胞分化促進作用が大きく減弱する様子が確認され、複数の経路が関与する相加的、あるいは相乗的な作用機序が想定されている。また、これらの細胞系を使用したリン酸化プロテオーム解析を行なった。軟骨細胞分化に寄与することが知られているSMAD2/3に加えて、いくつか特徴的に変動するシグナル経路が観察されており、これらのシグナル経路の変動がどのように軟骨細胞分化に関わっているのか、さらに検証を行なっている。 また、これらのW9ペプチドによる誘導作用機序の解明と並行して、この活性をミミックした、in vivo等での評価に取り扱いの容易な刺激剤の開発を試みている。これまでの検討から複数の抗体認識部位を持つ改変抗体の構造最適化はほぼ完了しており、さらにリンカーの配列や繰り返し回数などの基本骨格は数パターンまで決定されている。これを基盤として、上述の候補遺伝子に対する抗体可変領域を組み込んた改変抗体を作出し、in vitroでの活性評価を行った。マウス軟骨細胞様ATDC5細胞に対して、これらの抗体改変分子で刺激を行うと、一部の組み合わせでは軟骨細胞の分化状態を反映するCol2、Aggrecan遺伝子の変動が認められた。さらに、有効と考えられた数種類に関しては、マウスin vivoでの解析を進めている。モノヨード酢酸投与による変形性関節炎モデルを用いて、抗体の投与による運動量の変化、また関節標本での骨・軟骨組織への影響を観察する。
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