骨の恒常性は骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスによって維持される。破骨細胞分化の必須サイトカインであるRANKLは膜型として発現する他、細胞外領域で切断され可溶型タンパク質として産生されることが知られている。しかし膜型・可溶型のそれぞれの生理的意義は多くが不明である。またRANKLは免疫組織形成や乳腺成熟、がんなど多岐に亘る生体制御機能を有するが、いずれにおいても膜型と可溶型の寄与については不明である。そこで本課題ではゲノム編集技術による遺伝子改変マウスの解析を通じて、膜型RANKLおよび可溶型RANKLの生体制御能の解明を目指した。まず可溶型RANKLが産生されないマウス (RANKLΔS)では胸腺髄質上皮細胞の分化、リンパ節の形成、妊娠時の乳腺成熟に異常はなかった。RANKLΔSマウスは破骨細胞分化も正常であることから、可溶型RANKLは骨代謝や免疫組織形成、乳腺形成といった生理的機能に必須ではないことが判明した。さらに閉経後骨粗鬆症モデルにおいても、RANKLΔSマウスに野生型と同程度の骨量減少が認められたため、エストロゲン欠乏による骨粗鬆症化においても可溶型RANKLの寄与は低いと示された。一方、マウスの悪性黒色腫ならびに乳がん細胞株を用いたがん骨転移モデルにおいて、RANKLΔSマウスでは有意に骨転移が抑えられることがわかった。可溶型RANKLは腫瘍細胞に発現しているRANKに直接作用することで、骨組織への細胞走化性を高め、骨転移を誘導することが明らかとなった。また、膜型RANKLのみを欠損させたマウス(RANKLΔM)の解析から、骨代謝や免疫組織形成における膜型RANKLの重要性を検証した。さらに関節リウマチモデルの解析から、関節リウマチにおける骨関節破壊および骨粗鬆症化における可溶型・膜型RANKLの病理学的関与を検討した。
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