研究課題/領域番号 |
18H02923
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
妻木 範行 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (50303938)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軟骨 / 細胞分化 / iPS細胞 / 動物モデル / 骨形成 / 骨欠損 / 内軟骨性骨化 |
研究実績の概要 |
下記の3つを行った。 1)骨欠損は粉砕骨折などにより生じ、主に自家骨移植での治療が行われているが、採取部位合併症や採取量の制限など欠点があり、新しい治療法の確立が望まれている。我々は、ヒトiPS細胞由来軟骨(hiPS-Cart)を骨欠損部に移植することで骨化を誘導するとの仮説を立てた。本研究では、動物モデルの骨欠損にhiPS-Cartを移植し、iPS細胞から軟骨への分化培養期間が骨形成に与える影響を解析し、骨形成過程を経時的に評価した。研究の方法は、10週齢免疫不全マウスの大腿骨に3.5mmの骨欠損を作成し、hiPS-Cartを移植し、継時的にレントゲン評価を行った。移植した群では移植しなかった群に比べて有意に大きな新生骨を認めた。分化培養期間10週の軟骨を移植した場合は12週と17週の軟骨と比較して早期に骨化を開始し、骨化サイズも大きかった。次に、分化培養期間10週と17週のhiPS-Cartを移植し、レントゲン、CT、組織染色にて経時的に骨形成過程を評価した。分化培養期間10週と17週の移植軟骨内部では共に、細胞浸潤が生じた後に軟骨の肥大化と石灰化、続いて骨化が生じ、二次骨化中心における内軟骨性骨化の過程に類似していた。これらの結果は、マウス骨欠損に移植したhiPS-Cartは、二次骨化中心おける内軟骨性骨化の過程を経て、骨欠損に新生骨を形成することを示唆する。この研究結果は、難治性骨欠損の再生治療開発に貢献すると考える。以上の成果をIimori, Y., et al. (2021). "Implantation of human iPS cell-derived cartilage in bone defects of mice." Tissue Eng Part A.に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の全体構想は、ヒトの運動器骨格が形成・維持される機序を分子レベルで解明することである。骨格を器官/組織としてとらえ、その制御機構を培養細胞のレベルではなく、生体の器官/組織の環境で理解することをめざす。生体の器官/組織を使った分子レベルの実験は遺伝子改変マウスモデルで行われてきたが、その知見がヒトに当てはまらないことが多々ある。ヒト器官/組織でのバイオロジーを知るためには、その構造と機能を誠実に再現するモデルをヒト細胞を使って作り、調べる必要がある。iPS細胞が開発されて以来、細胞リプログラミング技術を使うことで、誠実なヒト組織モデルを作ることが可能なことが示されつつある。このような目的の中で2020年度は、ヒトiPS細胞由来軟骨が生体の骨欠損部に内軟骨性骨化を通して新生骨を誘導することを明らかにし、論文に報告した。よっておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
全体構想は、ヒトの運動器骨格が形成・維持される機序を分子レベルで解明することを目指すため、ヒト細胞とマウスなどの動物の実験系、およびxenograftモデル実験の結果を比較し、知見を得ることを目指す。そのために、ヒトiPS細胞由来軟骨を免疫不全動物の種々の組織に移植して、in vivoにおけるふるまいを解析することを行う。2020年度までに皮下及び骨欠損部に移植した結果を解析したが、今後は椎間板髄核摘出部に移植し、ヒトiPS細胞由来軟骨が移植する場所の環境によって、どのような影響を受けて分化・リモデリングするかを解析していく。シングルセルRNAシークエンス解析を導入し、移植物で起きている遺伝子発現変化を一細胞レベルで網羅的に解析し、軟骨細胞分化の分子機序を解明することを目指す。
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