研究課題
髄核細胞は軟骨細胞様髄核細胞と脊索様髄核細胞に分けられる。我々はヒトiPS細胞から軟骨様髄核組織(hiPS-Cart)を作製した。ヌードラット尾椎椎間板から髄核摘出したモデルに対し、hiPS-Cartの移植後6ヶ月における抑制効果を検証した。【方法】ヌードラット尾椎椎間板に対して、皮膚切開し(Sham群, n=13)、髄核摘出を行い(Nuc群, n=13)、そこにhiPS-Cartを移植した(hiPS-Cart群, n=19)。術後1週にMRIでhiPS-Cartの有無を評価し、hiPS-Cart保持群と同脱転群に分類、術後6ヶ月に椎間板高(%DHI)・終板破壊の定量(bone erosion area)による画像評価、組織学的評価、椎間板の動的粘弾性評価(貯蔵弾性率、損失弾性率)を行い、各群で比較検討した。【結果】hiPS-Cart保持群はNuc群と比較して、%DHIは有意に高値、bone erosion areaは有意に低値であった。組織学的評価でhiPS-Cart保持群の椎間板内にはSafranin O染色陽性およびHuman Vimentin陽性組織が認められ、線維輪の層状構造、骨端および成長軟骨板の構造が保たれていた。hiPS-Cart保持群はNuc群との間に貯蔵弾性率で有意差を認めたが、Sham群との間には有意差を認めなかった。【考察】椎間板内に移植したhiPS-Cartは6ヶ月間生存し、椎間板高を保持しつつ、終板変性を抑制することが示された。動的粘弾性はSham群と同等の結果であり、hiPS-Cartは髄核を置換してその機能を長期的に代替することが示唆された。また、カニクイザルと遺伝子編集技術を用いて、関節の骨軟骨欠損への同種軟骨移植におけるMHCクラスIの役割を解析し報告した。
2: おおむね順調に進展している
研究の全体構想は、ヒトの運動器骨格が形成・維持される機序を分子レベルで解明することである。骨格を器官/組織としてとらえ、その制御機構を培養細胞のレベルではなく、生体の器官/組織の環境で理解することをめざす。ヒト器官/組織でのバイオロジーを知るためには、その構造と機能を誠実に再現するモデルをヒト細胞を使って作り、調べる必要がある。iPS細胞が開発されて以来、細胞リプログラミング技術を使うことで、誠実なヒト組織モデルを作ることが可能なことが示されつつある。このような目的の中で2021年度は、ヒトiPS細胞由来軟骨様髄核組織が生体の椎間板内の髄核の役割を果たし、椎間板変性を防ぐ結果を得た。また、霊長類のカニクイザルを使っての軟骨欠損モデルを導入することができた。よっておおむね順調に進展していると判断した。
全体構想は、ヒトの運動器骨格が形成・維持される機序を分子レベルで解明することを目指すため、ヒト細胞とマウスなどの動物の実験系、およびxenograftモデル実験の結果を比較し、知見を得ることを目指す。そのために、ヒトiPS細胞由来軟骨を免疫不全動物の種々の組織に移植して、in vivoにおけるふるまいを解析することを行う。2021年度までに椎間板に移植した結果を解析したが、2022年度は導入したシングルセルRNAシークエンス解析を本格的に用いて、遺伝子発現変化を一細胞レベルで網羅的に解析し、髄核細胞及び軟骨細胞分化の制御機構を分子レベルで解明することを目指す。また、霊長類モデルを使って移植軟骨の分化機構を詳細に解析し、その知見のヒトへの外挿を試みる
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 図書 (4件) 備考 (3件)
Biomaterials
巻: 284 ページ: -
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