遺伝子改変モデルマウスなどを用いて明らかにされてきた軟骨や椎間板髄核における細胞分化制御機構を、ヒトにどのように外挿するとよいかを調べることを目的に研究を行った。ヒトの正常な状態の良いサンプルを得ることは困難なため、同じ霊長類であるカニクイザルを用いて、シングルセルRNAシークエンス解析を行った。シングルセルレベルで網羅的に遺伝子発現を解析することで、各細胞分化段階に特異的な遺伝子を検証できるだけなく、細胞間interactionを調べることも可能になる。3歳齢のカニクイザルの関節軟骨と腰椎椎間板髄核を採取した。リベラーゼを用いてサンプルをロッキングしながら細胞外マトリックスを消化し、シングルセルを得た。各サンプルのシングルセル懸濁液をUniversal Surface Biotinylation法を用いてビオチン化し、ハッシュタグを付加した。rhapsodyのシステムとTAS-seq法を用いてライブラリーの作製とシーケンスを行った。細胞ごとに各遺伝子のリード数を記載したマトリックスファイルを作成し、Seuratを用いて2次解析を行った。次元削減を行いUMAPを用いて2次元のグラフに各細胞をプロットした。関節軟骨の一部の細胞と髄核の一部の細胞は同じクラスターに分類され、似た遺伝子発現プロファイルを持つことが判明した。FindMarker関数を用いてマーカー遺伝子を調べたところ、このクラスターには軟骨細胞様髄核細胞と関節軟骨の中間層の細胞が含まれることが判明した。一方、髄核サンプルの細胞のみが分布するクラスターはKRT19が高発現しており、脊索様髄核細胞に相当すると考えられた。関節軟骨サンプルの細胞のみが分布するクラスターはPRG4が高発現しており、関節軟骨の表層の細胞が含まれることが判明した。以上の結果により、霊長類の軟骨および髄核細胞の詳細な分類が可能となった。
|