研究全体構想はΔ133p53を用いて高齢患者の老化間葉系幹細胞から効率よく移植用軟骨細胞を得るための分子機構解明である。研究目的は、1)抗老化因子Δ133p53がどのように老化を制御して軟骨細胞に分化誘導するかについてΔ133p53過剰発現老化間葉系幹細胞から軟骨細胞に分化誘導後、2)Δ133p53過剰発現老化軟骨細胞を使用し、 RNAシーケンスとクロマチン免疫沈降シーケンスを行い明らかにする、3)内在性Δ133p53や見出された分子を増加させる低分子化合物をスクリーニング するための細胞評価系をゲノム編集技術による内在性タンパク質の可視化で構築する、である。継代培養を繰り返して細胞老化したヒト間葉系幹細胞にΔ133p53を過剰発現させた細胞、ベクターコントロール細胞を軟骨細胞に分化誘導し、継時的(14、21、28日)にサンプリングし、Cut and Run 法により、Δ133p53が結合しているゲノム上の部位を網羅的に解析した。その結果、分化日数に伴い、Δ133p53がゲノム上のプロモーターに結合する割合が減少していくことが判った。また同様に、遺伝子の転写開始点に対して、1 kb以下及び3 - 5kbの範囲にΔ133p53が結合している割合も、分化経過に伴い減少することが判明した。このことから、Δ133p53導入により老化間葉系幹細胞において、Δ133p53が軟骨細胞への分化21日までに積極的に転写に関わっていることが示唆される。Δ133p53が結合する部位近傍の遺伝子の中には、軟骨分化に必須のSoxトリオをはじめ、軟骨分化に重要な遺伝子が多数含まれていた。今後、既にデータを取得しているRNAシーケンスのデータと合わせて、Δ133p53により転写制御を受ける老化間葉系幹細胞の若返りと軟骨分化に関わる遺伝子を同定する予定である。
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