研究課題
骨粗鬆症の骨密度低下等により骨の脆弱性が増大し、骨折のリスクが増大する疾患と定義される。この骨密度低下の最も大きなリスクとして、女性における閉経と、男女共加齢が挙げられる。閉経は骨吸収細胞である破骨細胞の活性上昇により、骨量が減ることが知られている。一方、加齢による骨密度減少のメカニズムの詳細は明らかではなかった。申請者は1回膜貫通型分子Enpp1 (ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase 1)に着目し、Enpp1の機能不全型自然変異マウスであるttw (tip toe walk)マウスの解析を行い、ttwマウスではリン代謝の恒常性維持機構の破綻からカルシウムの異所性沈着をきたし、その結果、骨からはカルシウムが失われ骨量が減少することを明らかにした。また、特にリン負荷においてttwマウスがこの骨粗鬆症以外にも寿命の短縮や、動脈硬化等の様々な老化所見を呈することを認めている。しかし、このEnpp1がどの臓器で全身的なリンやカルシウムのホメオスターシス、さらには老化を制御するのかは明らかではない。そこで、Enpp1 floxマウスを作成し、Enpp1によるリンやカルシウム代謝および老化を制御する責任臓器を同定し、その制御機構を明らかにすることとした。Enpp1 floxマウスの樹立を行い、全身的にCreを発現するCAG Creマウスと交配し、CAG Cre/Enpp1-flox/flox (Enpp1 cKO)マウスを作成したところ、ttwマウス同様の表現型を呈したことからEnpp1 floxマウスの作出に成功した。さらに、Enpp1の転写制御領域の下流において、Enpp1のスタートコドンからin frameでノックインするレポーターマウスの樹立を行い、すでに産仔を得ている。
2: おおむね順調に進展している
これまでのttwマウスの解析から、Enpp1が全身的なカルシウム・リン代謝、さらには老化を制御することを明らかにしている。これらのことを受けて、Enpp1を発現し、Enpp1を介したこれらの制御を行う責任臓器を同定するため、Enpp1 floxマウスの作出に成功している。全身的にEnpp1を欠損するEnpp1 cKOマウスの解析からは、ttwマウスと同様の表現型を呈することを見出しており、Enpp1 floxマウスの樹立している。そこで、Enpp1の臓器特異的なコンディショナルノックアウトマウスを作成するため、様々な臓器特異的Creマウスとの交配を進めている。これまでのttwマウスの解析から、Enpp1の機能不全により骨細胞で産生されるFGF23の血中濃度の異常を来すことを見出しており、骨細胞およびその上流である骨芽細胞においてEnpp1を欠損させる組織特異的Enpp1欠損マウスの作出を進め、当該マウスの作出がほぼ完了している。また、同様にttwマウスの解析から、Enpp1の機能不全により腎臓におけるビタミンDの活性化調節機構の破綻を来すことを見出していることから、腎臓特異的にEnpp1を欠損するマウスの作出を進め、こちらもすでにCreマウスの入手から交配が進行している。また、Enpp1の発現を生体マウスでリアルタイムに観察するためのEnpp1レポーターマウスの作出を行い、すでに相同組み替えから仮親への移植を終え、産仔を得ている。このように、予定していた組織特異的Enpp1欠損マウスの作出およびEnpp1レポーターマウスの樹立が進行しており、おおむね順調に進展していると判断している。
今後は、現在進めている臓器特異的Enpp1コンディショナルノックアウトマウスの作出を完了させ、各々の系統において、リン負荷等におけるカルシウム・リン代謝の異常や老化の進行、血中FGF23や活性型ビタミンD等の解析を行う。これらの解析によりttwマウスやEnpp1 cKOマウスと同様の表現型を呈する臓器特異的Enpp1コンディショナルノックアウトマウスを同定し、Enpp1を発現し、Enpp1を介したカルシウム・リン代謝および老化を制御する責任臓器を決定する。また、Enpp1レポーターマウスにおいても、マウスの作出が確認出来次第、リン負荷等においてEnpp1を強く発現する臓器をin vivo imaging等で決定する。これらの解析により、Enpp1を介して全身的なカルシウム・リン代謝や加齢の恒常性を制御する臓器を決定したのちは、その臓器におけるEnpp1を発現する責任細胞を決定し、当該細胞のin vitro等の解析から、Enpp1を介したカルシウムやリン代謝、老化の制御機構の解明を進める。さらに、Enpp1の抗体作成も進め、膜貫通型タンパク質であるEnpp1の可溶型タンパク質の有無等を計測するシステムの樹立を進める予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
J Orthop Res
巻: 37 ページ: 972-980
10.1002/jor.24258
J Bone Miner Res
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/jbmr.3689
J Bone Miner Metab
10.1007/s00774-018-0964-6
Sci Rep
巻: 8 ページ: 18019
10.1038/s41598-018-36982-0
巻: 8 ページ: 15783
10.1038/s41598-018-34173-5
J Orthop Sci
巻: 23 ページ: 878-883
10.1016/j.jos.2018.07.001
Dev Cell
巻: 46 ページ: 794-806
10.1016/j.devcel.2018.07.024
巻: 36 ページ: 679-690
10.1007/s00774-017-0890-z
Bone Rep
巻: 9 ページ: 11-18
10.1016/j.bonr.2018.06.004. eCollection 2018 Dec
FASEB J
巻: 32 ページ: 4016-4030
10.1096/fj.201701424R
Oncogene
巻: 37 ページ: 2903-2920
10.1038/s41388-018-0160-0