研究課題
本研究では、肉腫のゲノム・プロテオームの背景を理解することで、転移・再発・治療抵抗性といった臨床的に重要な事象の分子背景を解明しようとしている。本研究の最終的な目的は、鑑別診断や治療効果予測のためのバイオマーカーの開発を通じて、肉腫の治療成績を向上させることにある。次世代シークエンサーによりゲノム解析が日常的に行われるようになり、病態に関連した遺伝子の変異の情報が得られるようになった。また、質量分析を用いた網羅的なタンパク質発現解析によって、発現しているタンパク質の有り様を調べることも簡便にできるようになった。一方、ゲノムの異常は必ずしもプロテオームに翻訳されているわけではなく、プロテオームの異常の原因となる遺伝子変異を同定することは依然として困難である。ゲノムとプロテオームを統合することが次の課題になっている。本研究では、肉腫の臨床検体を用いてゲノムとプロテオームの情報を得て、臨床病理情報と統合的に解析をしている。肉腫のプロテオゲノミクス研究としては、世界的に類をみないものであり、オリジナルな成果を期待している。ゲノムからプロテオームを疑似的に作成し、質量分析データの検索に使用することで、それぞれの腫瘍サンプルに最適なプロテオームのデータを得ようとしているところに本研究の技術的な特色がある。また、臨床病理学的なデータが附随したサンプルを十分な数だけ使用するところが、本研究のアドバンテージである。実験動物や培養細胞などのがんモデルを用いた解析のメリットは多々あるものの、臨床応用を目指した研究においては、臨床検体からしか得られない情報を活用できることのメリットは大きい。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、肉腫の臨床検体を約50症例分使用して、プロテオゲノミクスのデータを取得した。使用した腫瘍組織は組織学的に異なる様相を示し治療方針も異なるのだが、鑑別診断が問題になる症例が多い。ゲノムデータの多くは国立がん研究センタ-において以前のプロジェクトで採取されたものであるが、不足するものについては新規にデータを採取した。プロテオーム解析には質量分析を使用し、半定量的なデータを得た。国立がん研究センターで開発中のプロテオゲノミクスのためのソフトウェアを用いて、ゲノムデータをプロテオームのデータに変換し、質量分析の同定のためのデータベースとした。質量分析を用いたタンパク質同定において、通常は公的なプロテオームデータベースを使用するのだが、そのようなデータベースはできるだけコンパクトに作成されており、希な変異のデータは含まれていない。逆に、プロテオーム解析に使用するサンプルには含まれていないタンパク質のデータが含まれており、疑陽性の検出率を高める要因となっている。サンプルごとのゲノムデータを用いたプロテオームデータベースを作成することで、過不足なくプロテオームデータベースを作成することができる。今年度は組織型ごとに特徴的なプロテオゲノミクスのデータを得ることができた。
肉腫のプロテオゲノミクスのデータ採取を継続する。肉腫は組織学的に多彩な様相を呈する悪性腫瘍であり、50症例に由来するサンプルでは肉腫の鑑別診断のための研究として費用な範囲をカバーしきれていない。国立がん研究センターのバイオバンク試料や、他の研究機関とも連携してデータの取得を進める。また、単一国では希少がんの研究は困難であり、肉腫のゲノム解析が進んでいる他の国との連携も視野にいれている。プロテオームのデータについても同様である。ゲノムデータについては、NCC Oncopanelのデータが附随した肉腫の臨床検体を使用することも検討する。次世代シークエンサーを用いて得られるDNAやRNAのデータと、質量分析によって得られるタンパク質のデータが一致しないことが予測される。具体的には、RNAとタンパク質の発現相関は一般に50%以下と言われている。このような矛盾を引き起こす要因を調べる目的で、アレイを用いて得られるトランスクリプトームのデータを活用する。プロテオゲノミクスのためのソフトウェアを用いて統合的なデータ解析を進め、治療標的と目される遺伝子の異常が同定された場合は、その機能的な意義の解析を進める。具体的には、患者由来肉腫モデルを多数作製しており、それらを用いて、遺伝子の異常から予測される抗がん剤の効果と、同抗がん剤のモデル系における抗腫瘍効果を比較解析する。
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すべて 雑誌論文 (20件) (うち査読あり 20件、 オープンアクセス 17件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
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