研究課題/領域番号 |
18H02934
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西山 博之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20324642)
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研究分担者 |
宮崎 淳 国際医療福祉大学, 医学部, 主任教授 (10550246)
小島 崇宏 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (40626892)
神鳥 周也 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50707825)
河合 弘二 筑波大学, 医学医療系, 講師 (90272195)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | BCG / TDM / リポソーム / 癌免疫 |
研究実績の概要 |
がん免疫療法は外科療法、化学療法、放射線療法につぐ第4のがん治療法として期待されてきた一方で、懐疑的な位置づけに長い間甘んじていた。しかし、最近の免疫チェックポイント阻害療法の臨床での成功は、がん治療に革命を起こし、免疫療法に対する認識を一変させた。がん抗原、ペプチド、難溶性アジュバント、核酸など、免疫応答を制御するための分子は多種多様である。しかしながら、脂質を応用した癌治療法の開発は遅れている。我々はこれまでBCGの細胞壁成分である糖脂質trehalose-6 6’-dimycolate(TDM)を分離精製・リポソーム化し、抗腫瘍効果を検証してきた。本研究の目的は、人工脂質から完全合成した人工TDMを用いた新規製剤の開発にある。特に極性構造の異なるサブクラスだけではなく、シス型トランス型に分けた脂質を包埋した立体構造の異なる人工TDMを用いて、免疫賦活機序の差異を解明し、T細胞性抗腫瘍免疫効果を最大限に高め有害性を下げるように最適化された新規人工合成TDMリポソーム製剤の開発までを目標とする。現時点では、BCG細胞壁から抽出したMAのサブクラス(α、ケト、メトキシ)を比較した結果、Tokyo株ではケトMAに最も強い抗腫瘍効果を認めた(PLOS ONE, 2019)。この段階で、一時製剤化を考慮したが、MAとTDMを比較した結果、TDMにより強い活性があり、かつレセプターが明らかにされているためメカニズムの解明が行いやすいなどの点から、今後の開発はTDMで行うこととした。我々は、細菌細胞壁のTDMを安定的に抽出精製する技術を確立することに成功しており、BCG Connaught株のTDMが、強力な抗腫瘍効果を示すことを明らかにしつつある。今後は完全人工合成TDMを用いて、どのような構造のTDMが強力な免疫増強効果を示すかについて、リポソーム化したうえで検証を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
i.種々の抗酸菌菌腫からTDMを抽出し、薄層クロマトグラフィーにより単離精製後、質量分析するとともに、どのような構造のTDMが強力な免疫増強効果を示すかについて、リポソーム化して検証を試みた。ミコール酸(MA)、Connaught株のTDMについてはリポソーム化に成功している。 ii.CD8陽性T細胞が、活性本体であることが予想されているため、抗腫瘍効果のメカニズムの解明には、CD4/8 depletion抗体を用いた実験ならびに、フローサイトメトリーを用いたTIL解析が必要である。Depletion抗体についてはハイブリドーマを用いて作成技術は確立している。またフローサイトメトリーについてはBeckman Coulter社のフローサイトメーターを使用する。CD8細胞だけではくNK細胞もBCG膀胱内注入療法には関与していると言われている。そのためNK細胞不全であるBeigeマウスおよびNK depletion抗体を用いて抗腫瘍効果を検討する。いずれもハイブリドーマを用いて、depletion抗体は作成可能である。Beigeマウスもすでに飼育されている。 iii.MincleがTDMのレセプターであることから、Mincleノックアウトマウスを用いて抗腫瘍効果の消失を検討する。すでにMincle研究の第一人者である大阪大学微生物病研究所分子免疫制御分野の山崎晶教授からMincleノックアウトマウスは分与されており、当研究室で飼育されている。 iv.通常は膀胱癌細胞株であるマウスMB49膀胱癌細胞株を用いているが、他癌腫にも効果がある可能性がある。そのため免疫原性の高いMC38大腸癌細胞株および免疫原性の低いB16 melanoma細胞株を用いて検討する。特に免疫チェックポイント阻害剤との併用での効果を検証する。すでに両細胞とも当研究室で培養しており、実験に用いている。
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今後の研究の推進方策 |
糖脂質TDM(trehalose-6 6’-dimycolate)は、結核菌の細胞壁を構成する疎水性成分で、感染宿主に結核様肉芽腫病変を形成するため病原因子としてその性質が注目された。TDMは、トレハロースの6、6’位の水酸基に抗酸菌特有の脂肪酸であるミコール酸(MA)が2分子エステル結合した糖脂質である。さらに、TDMを構成するMAはα、ケト、メトキシ、ワックスエステルMAなど極性の異なるサブクラス成分から成り、各サブクラスの組成によって活性が異なることが知られている。さらに各MAは菌種によりC60~C90の炭素数の異なる分子種を含むばかりではなく、シス型トランス型の差があり、シス型の脂質がより強い活性を示すことが知られている。我々の実験結果からもBCG Connaught株のTDMはほとんどがシス型であることがわかっている。さらに、興味深い結果として、シス型αTDMは皮下接種モデルでは抗腫瘍効果があるものの、腹腔内投与モデルでは効果が得られなかった。一方、シス型ケトTDMではいずれのモデルでも抗腫瘍効果が得られる。なぜこのようなサブクラスおよびシス型トランス型により差が出るのか。TDMはC型レクチン受容体であるMincleがレセプターであることも明らかにされており、抗腫瘍効果の解明にもTDMを用いることが有利であると考える。我々の結果では、TDMはMAより強い抗腫瘍効果を示している。そこで、MAのサブクラスのうち最も活性の強い脂質を、α,α-trehaloseの6,6’位に特異的に導入しTDMを完全合成できれば、有効かつ強力な免疫賦活製剤となることが予想される。本研究では糖脂質の抗腫瘍効果のメカニズムを解明し、脂質免疫における新規の標的分子の同定を試みる。脂質免疫からT細胞免疫の活性化経路については不明な部分が多いが、この点が本研究により解明されることも期待できる。
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