研究課題
精子形成の源である精子幹細胞は無限に増殖し、ほぼ一生に渡って精子を産生し続ける。研究代表者らは精子幹細胞の長期培養系(Germline stem; GS細胞)を確立し、精子幹細胞が2年以上精子を作る能力を維持しながら増幅し続けることを明らかにした。この培養技術はマウスなどげっ歯類で確立されているが、ヒトに展開することができれば不妊症の新しい治療法となる可能性が高い。本年度の研究では、ヒト精巣の支持細胞であるセルトリ細胞をマウスの精巣環境へ移植し、ヒト精子幹細胞のin vivoアッセイ系の確立を試みた。カドミウム処理によりヌードマウス精巣の内因性精子形成を除去し、空になった精細管にヒト精巣組織片からセルトリ細胞を含む細胞集団を移植し精細管の再構築を目指した。また精子幹細胞の濃縮方法を確立するため、免疫染色およびフローサイトメトリーにて表面抗原のスクリーニングを行った。マウス精子幹細胞にて新たにEPHAR2 やCD2などの新規表面抗原を見出し、ヒト精子幹細胞における関与についても調べたが、発現が特に認められなかった。一方、ヒト精巣サンプルをcollagen type IIにより酵素処理して細胞を遊離し、lamininへの接着性に基づいて精子幹細胞の濃縮を行った。濃縮した細胞集団についてマイクロアレイ法にて遺伝子発現を調べた他、小分子化合物のケミカルライブラリーをもちいて96穴プレートにてスクリーニングを行い、ヒト精子幹細胞の増殖と維持に影響する化合物を調べ多数の候補分子が得られた。これらの候補分子についてヒト精巣細胞の培養に添加し増殖への影響を調べた。
2: おおむね順調に進展している
ヒト凍結精巣サンプルからの細胞の遊離法が確定し、培養条件の改善により精原細胞と思われる細胞の分裂像が観察されている。ヒト精子幹細胞マーカーのスクリーニングにより数個の候補分子が同定されたとともに、小分子化合物のケミカルライブラリーによるスクリーニングによっても増殖に影響が見られる候補分子を同定しつつあり、概ね順調に進んでいる。
今後の研究では、ヒト精子幹細胞の生存と増殖を促すシグナルを検索するためケミカルライブラリーを用いて小分子化合物のスクリーニングを引き続き行うとともに、これまでに得られた候補分子も含めてヒト精巣細胞の培養に添加し増殖への影響を調べる。具体的には、ヒト精巣サンプルをcollagen type II酵素にて処理して細胞を遊離し、ラミニンへの接着性などに基づき精原細胞を回収する。採取した細胞集団を各種小分子化合物の存在下で培養し、精原細胞の分裂像の有無を指標に増殖を促す化合物を明らかにする。精原細胞の持続的増殖が認められた場合には、精子幹細胞自体が増殖しているか否かを調べるため、精巣内移植をおこなう。免疫欠損マウスにブスルファンを投与し、内因性の精子形成を除去する。ブスルファン投与後およそ1ヶ月後に精巣内へ細胞移植を行う。2-3ヶ月後に移植精巣を回収し、霊長類細胞に特異的なマーカー抗体(例えばSall4)による免疫染色を行い、移植細胞がドナー由来のコロニー形成の有無を確認する。
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