研究課題/領域番号 |
18H02936
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
井上 貴博 三重大学, 医学系研究科, 教授 (80511881)
|
研究分担者 |
山崎 俊成 京都大学, 医学研究科, 講師 (00607749)
澤田 篤郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (10784796)
清水 公治 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50395901)
後藤 崇之 京都大学, 医学研究科, 助教 (90806605)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 前立腺癌 / 脂質 / 脂質過酸化反応 / 尿中揮発性有機化合物 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが樹立してきた患者由来xenograftモデルを用いた解析の結果をもとに、①脂質過酸化経路(lipid peroxidation)をターゲットとした治療標的探索、②前立腺癌細胞内および前立腺内微小環境における脂質過酸化経路の変化を反映していると思われる前立腺マッサージ後尿中の揮発性有機化合物(尿臭)測定による、新たな前立腺癌低侵襲性診断マーカー開発、の2つを目的とした。 ① 脂質過酸化反応経路の治療標的としての可能性検討に関しては、前立腺癌組織を用いて、脂質過酸化反応経路に関わる遺伝子産物(GPX4・AKR1C3、ACSL4など)の発現および酸化ストレスの程度を免疫染色にて確認した。その結果AKR1C3が前立腺癌の進展とともに発現上昇していることを確認して報告した。 またAKR1C3の強力な阻害剤を含むプロポリスの前立腺癌全摘後の再発症例に対する有効性・安全性に関する臨床試験登録が終わり、現在症例の解析中である。 ② 尿中揮発性有機化合物(VOCs)の前立腺癌診断マーカーとしての可能性検討に関しては、現在まで癌・非癌含め80例の尿を採取済みであり、前立腺マッサージ後の尿中VOCsに対して汎用性の高いガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を用いて測定を行った。現在、網羅的な解析にて癌・非癌とで差異のあるpeakを探索中である。 さらに、前立腺癌の細胞株に対してLCMS及びGCMSによるリン脂質解析を行い、細胞膜の腫瘍構成要素であるphosphatidylcholineに含まれる不飽和脂肪酸組成がアンドロゲン依存性細胞株LNCaPとアンドロゲン非依存性細胞株PC3/DU145とで有意に差異のあることを見いだし、現在論文執筆中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AKR1C3とACSL4の前立腺癌進展に関する細胞実験を2020年度に行い、分子メカニズムを解明する予定である。またVOCsの測定とその網羅的な解析に時間を要しているが、ようやく解析法に関して目処が立ってきたので、継続して癌・非癌を区別しうるVOCsを見いだし診断マーカーの探索を行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
① 脂質過酸化反応経路の治療標的としての可能性の検討では、ACSL4低発現前立腺癌細胞株(LNCaP)のACSL4強制発現細胞株およびACSL4高発現前立腺癌細胞株(PC3)のACSL4発現抑制細胞株を作成する。その上で下記の実験にてACSL4の前立腺癌進展・治療抵抗性への関与を検討し、治療標的としての可能性を見極める。 1)細胞増殖・浸潤能などの生物学的表現型の変化、酸化ストレス(H2O2など)・ドセタキセル(CRPCに対する標準薬)に対する反応と治療抵抗性との関係、AKR1C3阻害剤(3-(4-(Trifluoromethyl)phenylamino)benzoic acid)下での細胞増殖能・apoptosisおよびferroptosisの程度の変化などを検討する。 2)1)の実験でのリン脂質をはじめとする脂質の定量組成変化を質量分析法にて解析し、apoptosisやferroptosisに関わる脂質の変化を評価する。 ② 尿中揮発性有機化合物(VOCs)の前立腺癌診断マーカーとしての可能性検討では、癌・非癌とを区別しうるVOCs群を見いだし、論文化するとともに臨床応用に向けてこれらVOCs群の日内変動・日別変動、随時尿とマッサージ後尿等の変化を検討する。 ③三重大学で行われている最近2年間の前立腺全摘150例のうち腫瘍体積の大きい30例程度の前立腺癌組織を用いて、脂質過酸化反応経路に関わると推測される上記遺伝子産物(AKR1C3、ACSL4)の発現を免疫染色で、酸化ストレスの程度を8-OHdGで定量し、癌と非癌、悪性度での発現の差異と臨床病理学的因子との関連性を検討する。
|