研究課題
本研究ではゲノム変異導入ヒトiPS細胞からインビトロでヒトネフロン(腎オルガノイド)を誘導し、さらにヒトRCCの段階的な発がん過程を再現することで、その多段階発癌の分子機構を解明する事を目指し、研究を推進している。前年度までに、非淡明細胞型腎細胞癌 (nonccRCC)のがん抑制遺伝子の一つであるFLCN遺伝子を欠損させたヒトiPS細胞株を複数樹立し、更にネフロン前駆細胞及び腎オルガノイドへの分化能の解析を行うことで、FLCNがネフロン前駆細胞自体の維持や分化に重要な役割を果たす事を見出した。2020年度は、ネフロン前駆細胞特異的FlcnノックアウトマウスとヒトiPS細胞株を用い、ネフロン前駆細胞の分化及び維持にFlcnが果たす役割の解析を更に進めた。その結果、Flcnはネフロン前駆細胞の細胞分裂に重要な役割を果たしていることを見出した。また、染色体3番短腕(3p)欠損に端を発し、更にVHLの欠損とドライバー遺伝子(PBRM1, BAP1, SETD2)の獲得を経て発生すると考えられている淡明細胞型腎細胞癌 (ccRCC)に関しては、染色体3番短腕(3p)欠損iPSの樹立を進めた。一方で、3p欠損や複数のドライバー遺伝子欠損により、発がん以前にネフロン前駆細胞やネフロンへの分化能自体を失う可能性も考えられた。そこで、iPS細胞からネフロンへと分化した段階で遺伝子欠損を導入する事を可能にするために、ドキシサイクリン依存的にCas9を発現するiPS細胞株の樹立と、複数のsgRNAを同時に発現するベクターの構築と最適化を進めた。
2: おおむね順調に進展している
前年度までにFLCN欠損ヒトiPS細胞はネフロン前駆細胞への分化能を有すが、ネフロンへの分化効率はコントロールiPS細胞と異なる事を見出すとともに、FLCNの欠損自体がネフロン前駆細胞の機能に与える効果を検討する必要性が生じたため、ネフロン前駆細胞特異的Flcnノックアウトマウスの作製・解析を行った。その結果、正常なネフロンの形成にはネフロン前駆細胞におけるFlcnの発現が必須であることに加えて、ネフロン前駆細胞の自己複製と分化においてFlcnが重要な役割を果たす事を示すデータが得られた。このネフロン前駆細胞におけるFLCNの新たな役割の発見から、FLCN欠損による腎細胞癌発がん分子機構解明への展開が期待される。淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)に関しては、複数遺伝子の欠損によりネフロンへの分化誘導自体が影響を受ける際のバックアップとして、ネフロン誘導後にVHLとドライバー遺伝子の欠損を誘導するシステムの構築とドキシサイクリン依存的Cas9発現誘導ヒトiPS細胞株の樹立が進んでいる。
これまでの研究結果から、ネフロン前駆細胞自身の機能とネフロンへの分化にFLCNが重要な役割を果たす事が強く示唆された。本研究ではゲノム変異導入ヒトiPS細胞からインビトロでネフロンを誘導し、腎細胞癌の多段階発癌分子機構を解明する事が主目的であるが、ネフロン前駆細胞におけるFLCNの分子機能を解明する事で、腎細胞癌の発がん分子機構の理解も深まると考える。2021年度も引き続きFLCN欠損ヒトiPS細胞株及びネフロン前駆細胞特異的Flcnノックアウトマウスを用いたネフロン前駆細胞の増殖・分化機構の解析を継続し、FLCN欠損による発がん分子機構の解明への展開を目指す。並行してドキシサイクリン依存的Cas9 発現誘導iPS細胞株を用いて、インビトロ発がん誘導モデルの樹立、解析を進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
Nature Communications
巻: 11 ページ: -
10.1038/s41467-020-20156-6.
Cell Death Discovery
巻: 63 ページ: -
10.1038/s41420-020-00300-3. eCollection 2020.