研究課題/領域番号 |
18H02939
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大家 基嗣 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00213885)
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研究分担者 |
三上 修治 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20338180)
浅沼 宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70245570)
菊地 栄次 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (10286552)
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60383824)
小坂 威雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30445407)
篠島 利明 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60306777)
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60445244)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / 分子標的治療 / 血管新生 / 耐性 / 免疫治療 |
研究実績の概要 |
進行腎細胞癌の薬物療法は近年大きく進歩し、血管新生阻害薬による分子標的治療薬に加え、免疫チェックポイント阻害薬(PD1/PDL1療法)が治療の中心となった。分子標的治療薬の効果を予測するバイオマーカーの探索と耐性の克服は、社会的に解決すべき喫緊の課題である。本研究は、がん微小環境における不均一な血管構造や免疫浸潤に着目し、過酷な微小環境で生き残る癌細胞の標的分子・免疫環境での自然・獲得免疫担当細胞の役割・免疫チェックポイント分子の階層性を解析し、根治のための新規治療方法の探索を行う。細胞階層性を1細胞レベルで解析することは癌幹細胞の克服に繋がる。本研究は腫瘍検体の免疫組織学的解析に加え、最新のライトシート顕微鏡・シングルセルRNAシークエンス・血液循環腫瘍細胞を利用し、自動化された腎がんシングルセル解析の実装を目標とする。免疫組織学的検討においては、宿主由来の免疫浸潤(自然・獲得免疫)を網羅的に解析は、他癌腫においても報告は無い。この点において2018年度は、ハイスループットで免疫組織学的解析を可能にするための腎癌組織マイクロアレイの作成に着手した。当教室は世界的な腎癌データベースを有し、腎癌組織マイクロアレイから得られる結果は波及効果が期待される。実際の腎癌組織マイクロアレイCD3/CD8の免疫組織学的検討では、切片をデジタル画像化し自動カウントする解析プラットフォームの導入に成功し、腫瘍内免疫浸潤を1細胞レベルで数値化した。更に癌研究において革新的なライトシート顕微鏡・シングルセルRNAシークエンスを腎細胞癌に最適化するためのプロトコール作成にも着手し、特にライトシート顕微鏡は血管内皮マーカーCD34に着目し、腎腫瘍塊に存在する血管網を3次元で可視化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、がん微小環境や免疫浸潤を網羅的・ハイスループットで評価するための研究基盤である腎癌組織マイクロアレイの作成に多くを割いた。倫理委員会での研究承認後(承認番号:20180098 課題名:手術摘除が施行された腎細胞癌患者の予後/薬剤耐性マーカーに関する研究)、泌尿器科病理医と共同で腫瘍中心やinvasive marginを全症例で検証した。パイロット研究で行った腎癌組織マイクロアレイのCD3/CD8の免疫染色では、切片をデジタル画像化し自動カウントする解析プラットフォームを導入し、腫瘍内のT細胞浸潤を1細胞レベルで数値化することに成功した。即ち腎腫瘍内の不均一な免疫環境を国際基準で評価する(Pages F, et al. Lancet 2018, Galon J and Bruni D. Nat Rev Drug Discov 2018)ことが可能となった。新規ライトシート顕微鏡を用いる腎がん微小環境の可視化は、当教室の腎癌データベースから、特に血管新生阻害を主とする分子標的治療が行われた有転移症例に焦点を当てた。本顕微鏡を用いたパイロット研究で、血管内皮マーカーCD34に着目し、腎腫瘍塊の内部に存在する血管網を立体視することに成功した。シングルセル解析で腎癌幹細胞を解明する試みにおいて、2018年度は転移性腎癌患者からのリキッドバイオプシーが可能な前向き研究を倫理委員会で承認を得た(承認番号:20180099 課題名: 腎細胞癌患者を対象とした血中バイオマーカーの検討)。転移性腎癌患者では血中循環腫瘍細胞が多数存在することが予想され、当教室で保有する血中循環腫瘍細胞回収装置から得られる細胞切片では血中循環腫瘍細胞と考えられるCD45陰性細胞が、複数症例で確認され、本システムが実装可能なことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
がん薬剤耐性を解決する糸口として、がん微小環境を詳細に解明し、生き残る癌細胞、血管のリモデリング、免疫担当細胞を多面的に解析し、新規治療を開発する。特に免疫環境の探索は腎細胞癌の原発巣より行い、次にリンパ節、肺、骨、肝臓、膵臓などの転移巣に展開して転移巣の特徴を探索し、臓器特異的な免疫環境を明らかにする。この試みにおいて、2018年度の成果で得られた腎癌組織マイクロアレイは、当教室の世界的な腎癌データベース(Obata J, et al. BJU Int 2016, Tanaka N, et al. Eur Urol Focus 2015)に由来しており、研究の実現性を担保する。我々の腎癌組織マイクロアレイは、主要な淡明細胞癌の原発・転移巣のみならず、非淡明細胞癌、特殊な肉腫様腎癌、希少な転座型腎癌や本邦特有の透析腎癌も含まれる。また血管新生阻害後に摘出を行った腎癌組織マイクロアレイも含まれ、微小環境の劇的な変化後にリモデリングされる免疫環境もハイスループットで解析可能である。我々の独自性であるライトシート顕微鏡は2018年度の成果で、免疫染色・透明化プロトコールが腎細胞癌で最適化され、微小環境の3次元解析を可能にする新規イメージングが可能となった。即ち腎細胞癌の進展と治療に伴う微小環境の修飾を解き明かす研究基盤が概ね整ったと考える。次年度はこれら研究基盤を駆使し、腎癌幹細胞を頂点とする細胞階層性や不均一な血管・免疫環境を可視化し、特に腎細胞癌で喫緊な課題である免疫チェックポイント阻害薬(PD1/PDL1療法)の耐性機構に繋がる分子基盤を解明する研究を推進したいと考える。一方、本研究で期待される1細胞レベルのトランスクリプトーム解明、即ちシングルセルRNAシークエンスの導入に関しては、腎細胞癌に最適化された単一細胞化プロトコールを準備中であり、順次実装に移す予定である。
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