研究課題/領域番号 |
18H02943
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 知行 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (40209010)
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研究分担者 |
廣田 泰 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40598653)
永松 健 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (60463858)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 妊娠 / 妊娠高血圧腎症 / マウスモデル / 絨毛細胞 / 胎盤 |
研究実績の概要 |
課題1:LPAシグナル経路による胎盤内酸化ストレスの抑制とHDP発症の関係 臨床の血清、胎盤のサンプルの収集を行い、オートタキシン(ATX)-リゾフォスファチジン酸(LPA)シグナル経路関連分子の発現動態の解析を進めた。妊娠高血圧症候群(HDP)の病型の中で慢性高血圧(CH)、加重型妊娠高血圧腎症(SPE)の症例では正常例より血清ATX濃度が2-3倍の高い値を示していた。正常妊娠では妊娠中に胎盤でのATX産生により血中のATX上昇があるが、CHやSPE症例では、胎盤組織でのATX発現量は正常例との顕著な違いはなかった。高血圧を合併する母体では胎盤以外の臓器においてATXが慢性的に高い状態にありそれが病態形成に関与している可能性がある。絨毛細胞を用いて、ATX-LPAシステムと酸化ストレス関連因子の関係を検討した。過酸化水素添加による酸化ストレス負荷に対して誘導される抗酸化遺伝子HMOXの発現はLPA添加により増強した。LPAシグナル刺激はNRF2の細胞質内貯蔵量を増加させて酸化ストレスの制御に関わることが示唆された。 課題2:酸化ストレス制御によるHDP治療法の開拓 アンギオテンシン持続注入によるHDPモデルマウスに対するスタチン系薬剤の効果の検証した。昨年度にシンバスタチン(Sim)を内包したミセルキャリア(M-Sim)を作成しており、それを妊娠マウスに投与してマウス内の各臓器の分布を確認した。ミセルサイズは20μmを超えるサイズでは肝臓、腎臓および胎盤に集積していたが、胎仔への移行は認めなかった。20μmのM-SimとSimのそれぞれを投与して胎仔内のシンバスタチン濃度を計測するとSim投与では胎仔内に移行したシンバスタチンが確認されたが、M-simでは胎仔内のシンバスタチン濃度は検出限界以下であった。このことからM-Simは胎児毒性の無い安全な治療手段となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HDPの中心的病態機序である胎盤内酸化ストレスの制御機構の解明を目標として、LPAシグナル経路(課題1)とRAS経路の亢進(課題2)のそれぞれに対して検討を進めた。 課題1では、HDPの病型を分けた上での解析が可能な数の臨床検体が収集できた。細胞培養実験においては、酸化ストレスとATX-LPAシステムの関係を探る上で定量的計測が可能なプロトコールを確立してそれを用いたデータ収集を行うことができた。In-vitro実験および臨床サンプルを用いた検証のそれぞれについて、HDP発症の中心的な病態因子である胎盤内の酸化ストレスとATX-LPAシグナルの変化の関係を示すデータが得られており順調に進行していると判断している。課題2では、昨年作成したミセル化薬剤をHDPモデルマウスに投与して薬剤分布の確認を実施した。各臓器におけるミセルの分布の測定、胎仔内に移行した薬剤の検出方法について複数の方法により確認を進めることでデータの精度を高めて慎重に検討を進めた。その結果、最終的にシンバスタチンを内包したミセルキャリアで胎盤移行性が無いことが確認できた。これらの状況より当初の目標段階を達成しておりプロジェクト全体として順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
課題1について、本年度までの進捗によりHDPの発症時には抹消血中でのATXの増加が確認されているが、経時的な変化については未解明である。今後、妊婦集団における血清検体を妊娠中に複数回集めるコホート研究によりHDP発症と正常の妊婦間でのATX-LPAシステムの経時的な推移を検証する。また、絨毛細胞においてLPAシグナルがNrf2の細胞内量の調節に関わることを示唆する結果を得ている。今後、酸化ストレス制御因子の変化が絨毛細胞機能に与える影響、HDP病態形成における位置づけを明らかにしたいと考えている。そのために、RNAseq法による網羅的解析によりLPAシグナルに伴う遺伝子発現変化の全体像の把握を進める。 課題2については、HDPモデルマウスに対するシンバスタチン投与による発症抑制効果を予備実験で確認している。そこで、M-Simが同様のHDP発症抑制効果を発揮できるのかどうかについて検討を行うことで、ミセル化薬剤が胎仔への移行がなく母体症状と胎盤機能に効果をもたらす有用なアプローチとなるかどうかの確認を進める。特に、胎盤機能の改善の指標として胎仔の発育状態に注目し、脂質プロファイルの変化に留意して母児の副作用の有無についても解析を進める。
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