研究課題
上皮性卵巣癌は組織型から漿液性癌、類内膜癌、明細胞癌、粘液性癌に分類される。粘液性癌はこの中で最も予後が悪く、手術+既存抗がん剤による定型的治療では十分な治療成績は得られていない。そこで有効な分子標的治療の開発が切望されている。粘液性癌の発生にはKRAS遺伝子変異が50-60%程度報告されているが、BRAS変異については0~20%程度と発がんに関与しているか否かは明らかとなっていない。またこれらの変異頻度の報告は欧米の報告が主体であり、我が国の報告は極めて少ない。 粘液性癌は良性粘液性腺腫~境界悪性腫瘍を経て段階的に進展すると考えられている。粘液性腺腫や境界悪性などの前癌病変の解析研究はごく少数であり、一定のコンセンサスは得られていない。そこで本研究では粘液性癌(MC)、境界悪性腫瘍(MBT)、良性粘液性腺腫(MA)の各病変の手術摘出材料を用いて遺伝子変異解析を行い、各群に特徴的な遺伝子変異を同定することとした。MC16例、MBT10例、MA14例の手術摘出標本を用いて遺伝子変異解析を行った。KRAS遺伝子変異がMC 16例中の7例(44%)に、MBT 10例中2例(20%)に、MA 12例中の0例(0%)に認められた。また、BRAF遺伝子変異がMC16例中の0例(0%)、MBT 10例中4例(40%)、MA 12例中の0例(0%)に認められた。p53遺伝子変異は全ての症例において認められなかった。PIK3CA遺伝子変異はMCの1例においてのみ認められた。以上の結果からBRAF変異はMBTに特徴的な変化で、MCへの進展には関与せず、むしろBRAF変異を有するMBTはMBTで留まり、MCへと進展しないこと、またKRAS変異を有するMBTはMCへと進展する可能性が示唆された。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Arch Gynecol Obstet
巻: 302 ページ: 487-495
10.1007/s00404-020-05638-8