研究課題
口腔癌が転移する上で、脈管系浸潤は必須のプロセスであり、がん細胞が脈管・循環内環境に適応するために上皮間葉転換(EMT)のプロセスをうけ形質転換している可能性が、現在非常に強く示唆されている。研究代表者は、これまでのEMTに関する研究実績をもとに、EMT時に発現制御される新規分子マーカーの同定に一部成功し、悪性度との相関性も明らかにしてきた。そこで、本研究では、これらの分子マーカーならびに、申請者が見出したEMT時のユニークな選択的スプライシング制御によって調節される分子をも指標とした、EMT獲得口腔癌の新規な分化マーカーの探索をおこなった。選択的スプライシング制御によって調節される分子を解析し、EMT時に新たな遺伝子産物(タンパク質)の同定を試みており、現在も継続中である。一方、EMTはEMT-TF(EMT転写因子)と呼ばれる2-3種類の転写因子で制御されている。これまでの解析で、乳癌細胞や頭頚部癌細胞では、ZEB1がもっとも悪性度と正の相関を示していることを明らかとしており、ZEB1の発現を制御するような転写因子を検索したところ、ETS1がZEB1のプロモータ活性を強力に増強することを明らかにした。さらに、本年度は、ETSファミリーのESE1やESE3がETSのタンパク質安定性を制御することでZEB1の発現を抑制することを見出した。さらに、in vitroやin vivoの実験でもESEががん細胞の悪性度を低下させることを見いだした。現在、その分子機構に関し、詳細な検討を行うとともに、これまでの研究成果を論文発表するための準備を行っている。
2: おおむね順調に進展している
これまでの乳癌細胞を用いた研究成果を頭頚部癌細胞に応用し、EMTの普遍的な分子機構を確認している点は非常に順調である。ただし、普遍的な分子マーカーの同定を行うにあたり、当初、選択的スプライシング制御によって調節される分子に着目し、解析を行ってきたが、新規なスプライシング変異体の同定につながらず、この点では少々苦労しながら、現在も継続して研究を行っている。一方、EMTを強力に誘導するZEB1転写因子を誘導する分子を同定し、さらに、それを抑制するような分子の同定にも成功した。今後、これらの分子の、分子マーカとしての有用性を検討していく予定で、頭頚部癌のみならず多臓器の癌組織・癌細胞での発現解析を行い、EMT分子マーカーとしての位置づけを行う予定である。さらに、骨肉腫細胞での癌転移モデルに関する研究から、現在CTC(循環内腫瘍細胞)の樹立も行っており、CTCをもちいても、EMT分子マーカーとしての位置づけを行う予定である。さらに、これらのZEB1転写因子の発現制御機構は新規性が高いことから、おおむね順調に進展していると考えている。
ETSファミリーのETS1はZEB1転写因子の発現を上昇させ、同ファミリーのESE1は抑制することを、すでに乳癌細胞で明らかにし論文で発表している。本結果を、昨年度から本年度にかけ、頭頚部癌細胞でも検証し、保存されていることを確認している。さらに、ESE1のみならず、ESE3も同様な機能を有することから、頭頚部癌におけるESE3の機能に関する論文を作成し、本年度中に報告する。さらに、以下の実験を予定している。1.ESE3の作用機序には不明な点が多く、分子レベルで解析するために、実験系を作製する。ESE3とESE1のアミノ酸構造を比較し、欠失変異体などを作製し、分子生物学的手法で、ZEB1転写因子発現抑制の機構を検討する。2.頭頚部癌ではESE3の免疫組織学的検討を行ったので、他の組織の癌や肉腫でも同様に検討する。3.すい臓がんではZEB1以外にもSnailと悪性度との関与が強いことが知られ、ETS1やESE1、ESE3がSnailの発現に対する作用を検討する。これにより、EMTの普遍的な分子マーカーとして位置づけをおこなう。
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Journal of Bone and Mineral Research
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