研究課題
iPS細胞から歯原性間葉系幹細胞を分化誘導する技術に新たな分子機構で分化誘導能を示すCopine-7(Cpne7)と細胞極性を制御するSemaphorin4D(Sema4D)を応用して,ヒトiPS細胞(hiPS)から象牙質・歯髄複合体形成を誘導する技術を開発することを目的に次の研究を行った。hiPSから分化誘導した神経堤様細胞(NCLC)に対してCpne7を作用させる実験を行った。NCLCあるいはNCLC由来間葉系幹細胞の培地中にリコンビナントCpne7を添加することで象牙芽細胞の分化マーカー(DSPP)の発現を免疫組織学的に確認した。さらにNCLCオルガノイド形成法を用いた新規器官培養法の開発を試みた。iPS細胞の培養をラミニンコート培養皿と神経細胞誘導培地を用いることで,NCLCオルガノイドの形成に成功した。このNCLCオルガノイドをフィブロネクチンコート培養皿に播種したあと,Cpne7発現ラットエナメル芽細胞株の培養コンディション培地を添加することでさらに効率的に間葉系幹細胞,DSPP発現間葉系細胞に分化誘導させる方法を見出した。現在,この方法の再現性並びに生化学的解析を進めているとことである。一方,マウスおよびラットエナメル上皮細胞株にhCpne7あるいはmCpne7を強制発現させた細胞株の作製を行い,さらにこの細胞株によるhCpne7発現エナメル上皮オルガノイドの形成技術を確立させた。この2つのオルガノイドとiPS由来NCLCオルガノイドを結合させた共培養を行い,iPS細胞から象牙芽細胞への分化誘導オルガノイドの作製を現在進めている。
2: おおむね順調に進展している
hiPSから分化誘導した神経堤様細胞(NCLC)に対してリコンビナントヒト Copine-7(hCpne7)を作用させる実験を行った結果,NCLCあるいはNCLC由来間葉系幹細胞の培地中にhCOPN7を添加することで象牙芽細胞の分化マーカー(DSPP)の発現を免疫組織学的に確認した。iPS細胞についてはマウスiPS細胞からヒトiPS細胞を用いた実験への転換を進めているために,間葉系幹細胞への分化誘導,骨芽細胞への分化誘導方法について若干時間を有してしまった。しかし,基本的分化誘導については概ね予定どおりに成功しており,今後この実験の再現性についての検証を進めている。この結果を受け,NCLCならびに間葉系幹細胞への分化hiPS細胞にhCOPN7あるいはmCOPN7を加えることによってDSPPの発現を誘導することを認めた。この結果は,ヒトiPS細胞においても象牙芽細胞への分化誘導が可能であることを示唆しており,大きな研究成果であると考えている。さらにオルガノイド培養や上皮間葉の結合に関しての実験も進めており,新規器官培養法の開発についても期待できるところまできた。以上の成果により概ね順調であると判断した。
オルガノイド器官培養において細胞極性を制御する技術も重要であることは申請書に述べており,エナメル芽細胞ならびに象牙芽細胞の極性制御にはSemaphorin 4D,4A(Sema4D,4A)からのRhoシグナルの活性化が関わっている。そこで,本研究ではSemaphorin 4D(Sema4D)あるいはLPA(別のRhoシグナル活性化因子)を用いた象牙芽細胞の極性制御に関する実験を行う予定である。具体的にはラットエナメル芽細胞株あるいはマウスエナメル芽細胞株にSema4Dの発現ベクターあるいはLPA合成酵素の発現ベクターを導入した細胞株を作製して,さらにこの細胞を3D化させたオルガノイドの形成を行う。このオルガノイドとiPS細胞由来NCLCあるいは間葉系幹細胞,象牙芽細胞などのオルガノイドと共培養して3D化した象牙芽細胞形成を試みる。この組織切片での象牙芽細胞の極性発現,基質形成,石灰化などについて解析を行う予定である。3Dでもしうまくいかない場合は,細胞シート形成法にてこれらの細胞の積層実験から細胞の極性や基質分泌,石灰化などを検討する予定である。これらの複合体をさらにヌードマウスの腎被膜下に移植して生体組織中で象牙質―歯髄複合体の形成が行われるかについて検討を行う。象牙芽細胞の分化に関わるCpne7との組み合わせ,あるいはCpne7とSema4Dの両発現ベクターを用いたエナメル芽細胞の新規細胞株を作り,さらにこれらの細胞とNCLCとを組み合わせた3Dオルガノイドの形成を試みることでより精巧な象牙質―歯髄複合体形成に取り組んでいく。これらの研究成果は最終的にウシやブタなどの歯に対してこれらの細胞複合体を適応し,ヌードマウスの皮下にて象牙質歯髄複合体の再生が可能であるかを検証したいと考えている。
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