研究課題/領域番号 |
18H03021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 廉毅 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (70178341)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医療保険 / 介護保険 / 自己負担 / 受療行動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、医療保険や介護保険における自己負担の増加策および軽減策について、これらを「自然の実験」と捉え、計量経済学的手法等を用いて、その受療行動への影響の有無と程度について検討することである。初年度は主に以下の2つの研究を実施した。 (1)高齢者における自己負担割合の受療行動への影響 後期高齢者医療制度において、現役並み所得者(高所得群)の自己負担は30%、他の者(一般群)は10%という制度の違いを利用し検証を行った。ある都道府県の後期高齢者医療制度の匿名化された診療報酬請求書データ(レセプトデータ)を使用し、処方量の多い311薬について、自己負担の異なる群間の後発医薬品選択割合を計量経済学的方法で分析した。分析の結果、高所得群は後発医薬品を選択する割合が低い傾向があるが、慢性疾患の場合、この傾向は自己負担が高いことによって抑制された。自己負担が高所得群の受療行動に影響を与えることが示唆された。 (2)小児医療費助成の受療行動に与える影響 ある都道府県の国民健康保険の匿名化されたレセプトデータを用い、2つの方式の小児医療費助成が受療行動に与える影響を評価した。同県内において2つの方式の小児医療費助成が自治体ごとに別々のタイミングで導入されたこと(自然の実験)を利用して分析を行った。2つの方式の一方は、月あたり自己負担額の上限が決まっており、その額を超えると、超えた分の自己負担額が助成される。もう一方は受診回数に関わらず、薬剤費が全額助成される。分析の結果、医療費助成は医療費総額に統計学的に有意な影響を与えないが、薬剤費を16%増加させた。また、対象となった子どもを健康状態で2群に分けて解析したところ、医療費助成による薬剤費の増加は、健康状態の良い群の子どものみで見られた。この薬剤費の増加は処方の増加だけでなく、後発医薬品使用率の減少によっても説明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力組織の1つである長崎県保険者協議会において、先方組織の事情により全体の研究計画に必要なデータの抽出作業が遅れているが、研究計画自体はほぼ順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に変更はなく、初年度は当初予定した(1)高齢者における自己負担割合の受療行動への影響、ならびに(2)小児医療費助成の受療行動に与える影響の分析を実施した。次年度(2019年度)は、(3)介護保険の自己負担増の介護サービス利用への影響、ならびに前年度の残りの課題を中心に進める予定である。
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