本研究の目的は、医療保険や介護保険における自己負担の増加策および軽減策について、これらを「自然の実験」と捉え、計量経済学的手法等を用いて、その受療行動への影響の有無と程度、ならびに関連要因について検討することである。本年度は介護保険の分析、関連の分析、ならびに3年間の研究の総括に取り組んだ。 (1)介護保険の自己負担増の介護サービス利用への影響 介護保険の自己負担率の変更前後で、介護サービスの自己負担率が変わった被保険者と変わらなかった被保険者の公的介護サービス利用状況を比較する長期縦覧データベースを構築し分析を行った。N県の分析の結果、在宅居住者に限定した場合、自己負担率増の利用者において介護サービス利用が減少し(有意差なし)、介護費用もわずかに減少した(有意差あり)。2015年8月の一定以上所得者の自己負担割合増(1割から2割)の介護サービス利用への影響はあったとしても小さい可能性が示唆された。 (2)3年間の研究の総括 後期高齢者医療制度において、現役並み所得者(高所得群)は後発医薬品を選択する割合が低い傾向があるが、慢性疾患の場合、この傾向は自己負担が高いことによってやや抑制され、自己負担が高所得群の受療行動に影響を与えることが示唆された。また、脂質異常症治療薬の先発医薬品と後発医薬品の分析から、自己負担増加策に代わる施策としてInertiaを取り除く「ナッジ」施策の可能性が示唆された。小児医療費助成については、月あたり自己負担額の上限が設定されている助成制度および薬剤費無料化の助成制度のいずれについても、医療費総額に有意な影響を与えないが、薬剤費無料化によって薬剤処方の増加と後発医薬品使用の減少が観察された。
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