研究課題/領域番号 |
18H03038
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
平工 雄介 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (30324510)
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研究分担者 |
田中 昭代 九州大学, 医学研究院, 講師 (10136484)
中野 真規子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70384906)
村田 真理子 三重大学, 医学系研究科, 教授 (10171141)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 粒子状物質 / 炎症 / DAMP / リスク評価 / インジウム |
研究実績の概要 |
産業現場で使用される粒子状物質として、金属微粒子やナノ素材などが挙げられる。これらは吸入曝露により呼吸器に蓄積し、慢性炎症を介して線維化や発がんをもたらす。DAMP (Damage-Associated Molecular Pattern)とは、傷害を受けた細胞や死細胞から放出され、炎症反応を惹起する物質の総称であり、核蛋白のHMGB1やS100ファミリー蛋白などを含む。我々は最近、ナノ素材のカーボンナノチューブが肺胞上皮細胞を傷害してHMGB1を放出させ、近傍の細胞に作用して炎症反応とDNA損傷を起こすという粒子状物質の新たな発がん機構を提唱した。今年度の成果は以下の通りである。1)インジウム化合物は携帯電話やテレビの液晶画面などに使用され、曝露を受けた労働者では間質性肺炎を、実験動物では肺癌を起こす。我々は、酸化インジウムとインジウム・スズ酸化物(ITO)のナノ粒子、および水溶性の塩化インジウムが、ヒト肺上皮由来A549細胞において極めて低濃度でDNA損傷塩基8-ニトログアニンを生成することを明らかにした。その過程にはHMGB1、その受容体のRAGE、リソソームに存在するToll-like receptor 9が関与することを、これらの分子に対するsiRNAおよび抗体を用いて明らかにした(論文投稿中)。2)酸化インジウムあるいはITOを気管内投与したラットの肺組織では、S100ファミリー蛋白のS100A8とS100A9の発現が明瞭に認められることを、免疫組織染色とウェスタンブロッティングで明らかにした。3)インジウム化合物の職業性曝露に起因する呼吸器疾患症例のフォローを引き続き進めている。本研究で見いだしたDAMPは、粒子状物質による疾病のリスク評価指標として応用出来る可能性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験動物や培養細胞を用いた実験では、粒子状物質による炎症反応および健康障害にDAMPが重要な役割を果たす可能性を示唆する結果を得た。インジウム化合物の職業性曝露を受けた作業者の呼吸器疾患症例については、定期的なフォローを継続的に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
粒子状物質に曝露した動物や細胞を用いた実験研究では、炎症反応を介した疾患発症の分子機構をより詳細に明らかにする。さらに、インジウム化合物の曝露作業者の疫学研究や呼吸器疾患症例のフォローを進め、DAMPを粒子状物質による疾病のリスク評価指標として応用できる可能性を明らかにする。
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