研究課題/領域番号 |
18H03046
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
川畑 拓也 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主幹研究員 (80270768)
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研究分担者 |
塩田 達雄 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (00187329)
渡邊 大 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (10372624)
村上 努 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 主任研究官 (50336385)
駒野 淳 大阪薬科大学, 薬学部, 教授 (60356251)
森 治代 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 総括研究員 (20250300)
小島 洋子 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 企画部, 主任研究員 (70291218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HIV / エイズ発症 / 病態進行 / 遺伝子変異 / 宿主側因子 |
研究実績の概要 |
我々は25年の長期にわたる地域の性感染症の分子疫学的研究から、エイズ発症までの期間が極端に短いHIV感染者集団を世界で初めて発見し、報告した(Mori H, Kojima Y, Kawahata T, et al. AIDS 2015)。感染者は急性期の血中ウイルス量が通常より有意に高く、感染から発症までの期間が約1.5か月と極めて短い。当該HIVは世界に例を見ない特徴的な2つの変異、すなわちp6 Gag領域の5アミノ酸の重複挿入変異とインテグラーゼ(Vif)領域の終止コドンへの点突然変異を有していた。しかしその後の研究より、これらの変異自体はウイルスの増殖速度に影響しない事が明らかとなった。この変異HIV感染による急速な病態進行にはVpuをはじめとする他のウイルス変異と宿主の遺伝的背景や免疫との複雑な相互作用が関連していると考えられるが、未だ原因は究明できていない。 本研究は世界的にも珍しい急速な病態進行を呈するHIV感染者群に焦点をあて、その臨床病型、宿主因子、ウイルス学的解析から変異HIVの高い病原性を解明する。通常の症例と比較することにより、これまで動物モデルでしか検証できなかった病態進行にかかる要因や、HIV感染が日本人集団に適応して伝搬していくメカニズムについて新たな知見が得られると期待される。 急速に病態を進行させるウイルスは血中ウイルス量が多いため、地域的に急速な感染拡大を引き起こすリスクがある。急速な病態進行メカニズムを明らかにすることは、HIV感染拡大を防ぐという公衆衛生学的な視点からも大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・臨床病型に関する研究 これまで構築・維持してきた研究ネットワークにて変異HIV感染患者を探索・同定し、同意を得て臨床情報(患者背景、CD4陽性リンパ球数、血中HIV量、発症・治療の有無など)を収集・分析するとともに、ヒトゲノム遺伝子解析用検体を採取した。現在変異HIV感染が明らかとなっている患者33名のうち、20名から研究同意を得て、ゲノム解析用血液を採取し臨床情報の収集を行ったが、一部の患者の臨床情報については、協力医療機関からの提供が遅れている。また、これまで変異HIV感染を検出するには、HIVのシークエンスを行い、p6 Gag領域の特徴的な5アミノ酸の重複挿入変異とインテグラーゼ領域の終止コドンへの点突然変異を検出する必要があったが、昨年、治療のための薬剤耐性検査で調べる、HIV遺伝子のプロテアーゼ領域と逆転写領域の配列を用いた変異HIV感染患者の検出スクリーニング法を新たに開発した。 ・宿主因子に関する研究 感染患者の宿主ゲノムのうち、HIV感染の病態進行に関わると報告のある遺伝子(HLA Class I・Class II、CCR5、CCR2、CCL5/RANTES、IL-4)についてゲノムの多型解析を行った。これまでに解析した20名の患者の解析結果を総合的に評価したところ、臨床的に病態進行が早い変異HIV感染患者の宿主側因子多型の保有状況と、一般的な日本人の保有状況の間に、有意な差は見られなかった。 ・ウイルス因子の解析 これまでに作成した変異HIVが共通してもつ2つの変異を両方、あるいは単独で導入した3種類の感染性HIVクローンを用いた実験より、新型バリアントの解析には変異HIVの遺伝子全長をもつ感染性プロウイルスクローンの作成が必要と思われた。昨年度は変異HIVの遺伝子全長を持つ感染性クローンの構築を試みたが、成功しなかったことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
・臨床病型に関する研究 変異HIVが共通して保有する2つの特徴的な変異、すなわちp6 Gag領域の5アミノ酸の重複挿入変異とインテグラーゼ領域の終止コドンの点突然変異から変異HIVを検出する方法に替えて、昨年度検討したHIV遺伝子のプロテアーゼ領域と逆転写領域の配列を用いた変異HIV感染患者の検出スクリーニング法を用い、近畿地域の5ヶ所全ての協力拠点病院で未発見の変異HIV感染患者が存在しないか探索を行う。また、これまでに研究同意を得てゲノム解析用血液を採取した全患者の臨床情報(患者背景、CD4陽性リンパ球数、血中HIV量、発症・治療の有無など)を収集し分析を行う。 ・宿主因子に関する研究 宿主側因子については、変異HIVに感染していてゲノム解析用の検体採取がまだの患者から同意を得て検体採取し、宿主因子の解析を引き続き行う一方で、今年度新たに日本人でHIVに感染していない人や変異型HIVでは無い一般的なHIVに感染している人からも同意を得て検体を採取し、HIVの進行に関わるゲノムの変異を解析することで、変異HIVに感染し病態の進行が早かった患者と、宿主側因子の比較を行う。 ・ウイルス因子の解析 昨年度作製した変異HIVの遺伝子全長をもつ感染性クローンの解析途中に、そのクローンが上手く作製できていなかったことが判明した。そこで今年度は変異HIVの全長の遺伝子を持つ感染性クローンを確実に完成させ、そのウイルス学的性状について、変異HIVの野生株や、これまで作成した変異HIVが共通してもつHIVのbuddingに関るp6 Gag領域の特徴的な5アミノ酸の重複挿入変異とインテグラーゼ領域の終止コドンへの点突然変異の2つの変異を両方、あるいは単独で導入した3種類の感染性HIVクローンと比較し解析する。
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